エイユウの話 ~春~
ラジィが気付いた時にはすでに茜色が空色と混じる時間になっていた。横を見るとキースと、なぜかキサカが器用に立ったまま眠っている。ぼうっと考えているうちに、ラジィはだんだん恥ずかしくなってきた。寝顔を見られた事も確かに恥ずかしい。でもそれ以前に、いつも面倒を見ている相手に面倒を見られているという現状が恥ずかしかったのだ。
ラジィは眠っている二人に気を遣う様子を露とも見せず、がたがたと大きな音を立てて部屋を飛び出した。寝起きの男子二人は、その音に飛び起きる。ベッドを見て、保健室を見回して、キースが尋ねた。
「ラジィは?」
「あ?ベッドに・・・」
気付いていなかったキサカが指差したそこには、乱暴に扱われた布団だけが乗っかっていた。彼も驚いて保健室を見回した。やっぱりラジィの姿はない。
「ラジィ!」
キースがその名を呼びながら、ラジィを追いかけて保健室を飛び出す。その姿を見て、キサカは頭を乱暴に掻いた。
「ったく、ほっとけばいいものを」
そんな苦情を言いながらも、キサカもキースの後を追って、より乱暴に保健室を後にした。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷