エイユウの話 ~春~
「授業を受けていたら、生徒の大半が騒ぎ出しました。聞こえてくるのは流の導師の信じられない行為です。そこで考えました。そんな行為を受けるのはお前ら以外いねぇなと」
偉そうな格好で淡々と話しているのに、言語があまりに不似合いなほど丁寧なので、キースは思わずにやけてしまった。きっと適当なことを言って導師を困らせてきたのに、それでも淡々と話しているのも笑いを誘う。なんだか彼らしく感じたのだ。
笑われたキサカも、それに気付いているような顔で笑った。
「何か可笑しいこと言ったか?」
「いや・・・、君ほど丁寧語の似合わない人間はいないよ」
キースが素直に告げると、キサカはポケットに入れていた手を出した。そのまま無駄のない引き締まった腕を組む。さっきより数段えらそうに見える。
「ほめ言葉として受け取ろうじゃねぇの」
皮肉げに笑うキサカが、今のキースには多少なれとも救いとなる。まるで、ずっと前から知り合いだったかのような安心感が、そこには出来ていた。
ぐっすりと眠っているラジィの隣で、お互いに何を話すともなくただ淡々と時間が経つのを待つ。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷