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エイユウの話 ~春~

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 最高術師と当たって唯一良い所は、相手がどんなものを使ってくるのかが解るところにあると言われる。例えば明(みん)の最高術師のキサカなら水を使うし、緑の最高術師のキースなら黒豹型の魔物を使う、程度には。しかし、他の魔術に比べ、地の魔術は把握しにくいところがある。
 地の魔術というのは、言い方を変えれば生成魔術というものだ。先刻ジャックが使おうとした土陣とは、生成するための魔法陣の事を表す。土陣は各術師で異なったものを持っており、生成するものの質量はその術師の魔術の量と同等と言われている。しかし逆に言えば、決まっているのは質量だけであり、物質や性能などは無限にある。もちろん条件として、頭にそのイメージを固定していなければならないが。ちなみに土陣はいちいち書くと面倒臭いので、すでに書いてある紙を持ち歩くのが普通だ。
 そして、地の最高魔術師だけが把握しにくい理由というのはそこにある。
 ラジィの知る今までの統計によると、ニールが得意とする生成物は投擲具が多い。ジャックほどではないが、その身軽な動きで相手に生成した無数の投擲具を飛ばしてくるのだ。ちなみに投擲具とは投げて使う武器のことを言う。
 相手が今回も投擲具を使ってくるのであれば、形勢は一気に逆転、自分が有利になるはずだと、彼女は計算している。ラジィは大きく深呼吸してから、木鏡を軽く撫でた。中から孔雀のような生物が飛び出してくる。彼女の契約魔、メーラシエラだ。
「いくよ、シエラ」
『了解』
 メーラシエラは、立派な羽を華やかに広げて応じる。あまりにも美しいその姿に、どちらとも無く会場から歓声が沸きあがった。相手であるニールですら、「ほう」と思わず声を漏らす。
 メーラシエラの美しさはラジィの自慢だ。三十人を超える緑専攻の中でも、これほど美しい魔獣と契約したものはいなかった。また、それは時として相手を怯ませる武器となる。
 鮮やかな彩りの尾羽に目を奪われているニールのサイドはがら空きだ。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷