エイユウの話 ~春~
「地の術師、地の生者(ち・の・せいじゃ)!」
その言葉に、地の術師達から大歓声が沸き、緑の術師達は関心の声を上げ、キースの顔が青ざめた。
地の生者、ニール・マルセは、地の最高術師である。
いくら緑の次高術師(じこうじゅつし)と言えど、最高術師との差が小さいとはお世辞にもいえない。しかも、あまり魔力を使わなくともいい緑の次席と、最も魔力を使うといわれている地の首席では、力の差は思うより広いだろう。ましてや、男女間の戦闘能力さもある。
ラジィが聞いたら怒るだろうが、彼女にはかなり不利な戦いだ。いや、もはや負け戦に挑むといっても過言ではない。
一方、そんなキースの心配もよそに、ラジィは好戦的な態度でいた。身体チェックも終わり、あとはステージに向かう階段を上がるだけだ。
「キースが勝ったのよ。これであたしが負けるわけにはいかないじゃない!」
自分をいきり立たせる為、わざと考えを声に出した。隠れて彼女が毎回やる、まじないみたいなものである。キースがまだ戦っていないときは、「キースは絶対勝つから」と声を出していた。それから自分の円型木鏡をじっと見つめ、契約魔に話しかける。
「行くわよ、シエラ」
ラジィはステージ上に踏み出した。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷