エイユウの話 ~春~
「馬鹿にしないでちょうだい、謝罪くらい出来るわよ!」
まさかの叱咤に、二人は目を丸くした。その反応にラジィは我に返る。自分の発言を思い出し、見る見るうちに高潮した。その様子を見て、キサカが笑いを堪える。一方のキースは「やっちゃった」といわんばかりの表情だ。それでも自尊心の高い彼女にとって、二言たるものは許せる範囲になかった。結局彼女は誠意に欠ける、渋々の謝罪をする。
「・・・ごめん」
「気にしないで」
少し嬉しそうに、キースが笑った。彼の邪気のない優しい返答は、しかしラジィの居心地を少し悪くする。それを払拭するように、彼女は敢えて大きな声を出した。
「さ、次は実技の授業よ!行きましょ」
勢いよく出たラジィを、少年二人が見送る。
御都合主義の見え隠れするラジィの行動に、キサカは呆然とした。切り返しが早すぎる気がするが。彼女が出て行った後、荷物をまとめるキースに聞こえるよう、言葉を漏らした。
「いいのか?あれで」
「いいんだよ。あの方がずっとラジィらしい」
苦笑いのまま、しかし嬉しそうにキースはラジィを追いかけていった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷