エイユウの話 ~春~
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ある友が尋ねてきた。「最強の法師になるために必要な要素とは何か」と。
この寺子屋でも彼は優秀な生徒であり、現存する法師でも、まだ術師である彼を凌ぐ魔術師の存在はいるかいないかという状態であると、法師を多く知り合いにもつ私も思っていました。
私は彼に返した。「今のままでいることではないか」と。
しかし彼は笑うのです。
「君は何を見ている?私は未だ術師だ。いかなる法師であろうと、実践を踏まえていない私に劣る者がいるとは思えない」
自分に厳しい彼に、私は返す言葉も見つかりませんでした。確かに、実践を踏まえていない彼は即座の判断はできないでしょう。魔物と魔術の相性も、法師になってから実践を踏まえて身につけるものです。
考え込む私に、彼は申し訳なさそうに、優しく加えました。
「私に無くて、法師にある物が知りたいのだ。私のこの魔力の量は、私にあって法師にないものではないか」
言われてみるとそうでした。しかし、術師の段階から持つべき知識で、彼に足りないものとはなんでしょう?私は頭を悩ませました。
しかし、あまり長く彼を待たせるのは申し訳ないので、私は彼に少し時間をくれるように頼みました。彼は快く引き受けてくれました。
「一週間後にまた聞こう」そういって、彼は教室を出て行きました。
その日から、私は何かと彼を見ることが多くなっていったのです。
―――――『黄金の術師(ジャーム・エワ・トゥーロル)』 第一章第一部より抜粋
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷