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エイユウの話 ~春~

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 授業終了後。キースは一人寂しくノートを鞄にしまっていた。そんな中、聞きなれた少女の声が聞こえてくる。開きっぱなしの扉から教室に入った彼女は、ある少年に右手首を掴まれていた。彼女はその手とずっと戦ってきたのだろうと、キースは推測できる。ぎゃあぎゃあと騒ぎながら登場した二人に、クラスメートの視線が集まった。青しかいない教室に、赤色が入ってきたので吃驚したとも言える。
 一番前にいたため、すぐに彼等はキースを見つけた。一直線に二人は歩いてくる。前に着いたキサカは、ラジィの腕を引っ張り、キースの真正面に立たせた。そこで飄々と笑う。
「さあ謝れ。ここで謝らなければ、今後俺が全力でキースに近付く事を阻止すると思え」
 普段のラジィなら、キサカにそんな事ができるはずもないと解るだろう。だが今回はキースに公然で謝らなければならないという気恥ずかしさと、現状を飲み込めていない二点でパニックを起こしていた。恨めしそうにキサカをにらみつける。
 これにキースは気付いているのだが、パニックを起こさせたキサカ自身が気付かなければ意味が無い。パニックが収まらなければ、彼女は思考回路を取り戻すことはできないのだから。
 さすがに哀れに思ったキースが、キサカにラジィの開放を求めた。
「キサカ、もういいから。ね?」
「そうか?」
 キサカは意外と素直に応じてくれたが、なぜか助けられたラジィににらまれる。彼女が緩んだキサカの手を振り払うと、茶色の癖毛がくるりと撥ねた。それが収まる前に、彼女はキースに対して高らかに宣言する。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷