エイユウの話 ~春~
彼の受けているイジメは、一種の迫害だった。
この世界には、髪と瞳の色が何十、何百種類とある。有魔力人種の髪色に魔力の色が染み出すために統一性がない、という説が最有力と言われている。が、実際のところ確たる証拠はない。
そして有魔力人種という言葉から推察できる通り、この世界には無魔力人種も存在する。ちなみに有魔力人種をアルディ、無魔力人種をジャームという。魔力に影響されないジャームの髪色は、ほぼ金髪と統一されている。ちなみにいえば、「アルディ」は虹色を、「ジャーム」は金色を表したアルディの言葉である。
そのため、金髪というだけで人種を問わない迫害が、アルディの中に生まれていた。事実、金髪のアルディの九割がジャームとの混血だ。原因としては、アルディよりもジャームの血のほうが強いためである。迫害を逃れるために、通常金髪のアルディは、魔術を使って髪の毛を染める者が多い。
とはいえ、世界的にはジャームのほうが多人数であり、総合的に見れば金髪のほうが多くいるというのが、面白い現状である。
当のキースは金髪でありながら、法師養成学校の最高峰であるこの学院に入学するほどの実力を持っている。さらにその中でも、専攻魔術の最優秀術師の称号まで得ているのだ。つまり、金髪アルディの中でも、一割のほうの存在というわけである。となればそれは完全に、ファークトリストを初めとした人々の僻みだ。迫害しているという点だけで言えば、学園内のほぼ全員がそうである。そのせいなのか、実力者でありながら、彼はいかんせん自信が無い。それがまた、イジメを発展させてしまっていた。やり返さないことは、好都合なのである。
ラジィはキースの高さに目線を合わせる。しかし、キースは絶対にこちらを見ない。自信の無さが、他人と対等に話すことを阻んでいるのだ。彼はあまり人と目を見て話すのは得意ではない気質なのである。湖面色の瞳は、金色の長いまつげに光をさえぎられ、ずいぶんと澱んだ色に見えた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷