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エイユウの話 ~春~

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そこで彼らは出会った・1


 その日も学校の中庭には、燦燦と日光が差し込んでいる。四角い中庭を埋める緑色のじゅうたんで、春の終わりに咲く白い花が光を反射しているように輝いて見えた。暖かな空気と共に飛んできた渡り鳥たちが、心地よく歌っている。この学園のいつもの春の光景だ。
 学園にはいくつもの中庭がある。ほとんどの中庭が無人である中、箱庭型の中庭には人の姿があった。授業中にも関わらず、である。
 中庭の端に植えられた広葉樹の下に、涼しそうに風を受ける少年がいるのだ。髪の毛は太陽のような金で、瞳は深緑に潜む湖面のような緑青、透きとおるような肌も、全てにおいて女性的だが美しい。少女でもここまで整った顔は珍しいだろう。風景との色合いも絶妙で麗しく、春の精とでも言うべきだろうか?
 とても気持ちよさそうに目を細める彼は、雲の流れる鮮やかな空に視線を移す。これでもかと青い空に、真っ白な雲の姿が、夏が近づいていることを示していた。
「見つけたわよ!キース!」
 名前を呼ばれた少年は、そろりと上体を起こす。ザッザッと草や花に構わず突き進んでくる音と反対の向きを変えた彼に対し、声の主の近づいてくるスピードが速まる。彼が逃げ出すその前に、その人は彼との距離を考えない大きな声で怒鳴る。
「どこに行く気よ、泣き虫キース!」
 姿を現したのは少女だった。栗毛色の髪がピョンピョンと跳ねているのが特徴的である。気まずそうな顔で振り返った彼に、彼女は射るような視線を送った。そのままのボリュームで話し始めた彼女に、キースはあわてて注意する。
「ラジィ、授業中なんだから、もっとボリューム抑えて・・・」
 注意をされた彼女は、僅かに口をつぐんだ。注意されたことに対して、反射的に体が動いたのだろう。しかし、ふと彼女は気付き、体をわなわなと震わせた。どうしたのかと彼が覗き込んできたそのタイミングで、堪忍袋の緒が切れる。
「あんたが授業サボってるからでしょ!」
 悪いことをしている奴に怒られるのは、彼女にとって不道理なことだ。彼女の琴線に触れてしまったキースは、立つのを止めて足を投げ出した。逃走を諦めた証拠であり、また絶対に動かないという意思の現れである。そして彼は綺麗な顔をゆがませて言う。
「だってファークトリストがいじめてくるんだもん」
 情けないキースの姿に、ラジィはため息をついた。ファークトリストとは、同じ魔術を専攻している生徒である。彼はことあるごとに、キースを馬鹿にしてくる。ついこの間も、練習試合のあとに「あそこはああするべきだった」とか、「俺ならこうできるね」とか、忠告と揶揄のどちらとも取れるような発言を聞こえる位置でわざわざ言ってきたばかりだ。そんな危ういラインのイジメだからこそ、誰かに助けを求めるにも求めにくいものがある。
 きらりと彼の金髪が輝く。彼は本当に綺麗な金髪をしていて、まばゆささえ感じられた。しかし、これがネックになることもある。はあ、とつられてため息をもらい、キースがいじける理由を理解できるラジィは言葉が続かなくなった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷