エイユウの話 ~春~
ラジィは中庭で一人寂しく昼食を口にする。元気に茂った緑と、彼女の雰囲気があまりにもミスマッチで、非常に異質な感じだ。今日は部活の集会があると、気まずくなったままキースに伝え損ねてしまっていた。大抵昼食は一緒にとっているのだ。
授業開始のチャイムが聞こえてくる。次の授業は緑の授業なのだが、あまり興味が無かったために取らなかった。キースは首席なので、緑の授業には全参加が強制されている。それでも彼が単位を落とさないところが、証明される彼の桁外れの実力である。おかげで、差は開くばかりだ。
「やっぱり、敵わないのかなぁ・・・あいつには」
声に出して、自分が落ち込む発言をする。少しは溜め込んだマイナス思考を吐き出せるかと期待したのだが、ただ余計落ち込んだだけで恵まれるものは何も無かった。周りの緑が、翳ったようにすら見える。
ふと、キサカのことを思い出す。
元はといえば、キサカが余計な口出しをしたからこんな事になったのだ。そうはっきりと自覚できる責任転嫁をする。しかし、自覚した分だけ罪悪感も溜まり、どんどん落ち込んでいった。
中庭からはキースが授業を受けている教室も、キサカが授業を受けている教室も、両方見渡す事ができた。もちろんラジィはキサカの教室のことは知らなかったが。そしてまた、その逆の事も言える。
中庭で一人寂しく昼食を食べているラジィに、授業中によそ見をしていたキサカが気付いた。中央の木に寄りかかっている彼女は目に見えて落ち込んでいて、周りの空気が違ったのだ。晴れやかな空とキラキラと降り注ぐ光の粒子が、鬱な彼女をより一層目立たせていた。キサカはあきれてため息をつく。
落ち込むくらいなら、喧嘩なんかしなけりゃ良いのに。
誰かと喧嘩するほどの関係になった事もない一匹狼気質のキサカは、深く考えずにそう思った。また逆に、喧嘩するのが嫌ならば、自分の意見や考えなんて、曲げてなんぼの物だと言える。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷