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エイユウの話 ~春~

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「ま、今はあの子一人だからな。ああやって、準導師が媚を売りにくるそうだ。可哀想に、彼女にはボディーガードがいない」
 ボディーガードとは言葉の文だが、要はそれを防げるような友人が居ないというわけである。
 今回は心の準導師なので、きっと親の付けたボディーガード役なのだろうとキサカは考えた。だが、あれでは友人なんて出来るはずもない。ただ悪循環するだけである。親とは、なんと空回りなことをしてしまうものか。
 心の導師を心中で嗤うキサカに、キースは再び首をかしげた。
「心以外の準導師が媚を売って、何か意味があったっけ?」
 キースの記憶によれば、たしか導師同士は仲が悪いわけではないが、基本的には互いに干渉しあっていないはずだ。準導師の昇格など、交友の域に入るとは思えない。キースの疑問にキサカは、苦そうな顔で湯飲みを傾けた。けれどもその中身は空で、眉間にしわを寄せる。結局湯飲みを置いて、頬杖をついた。実につまらなさそうな顔だ。
「準導師ってのは、大体が元心の術師なんだよ」
 心の魔術は、占いや呪術的な役割を担う魔術だ。他の魔術に比べ、攻撃的な威力は持ち合わせておらず、法師になっても「活躍」と言えるほどのことは出来ない。そのためか法師となる事に魅力を感じず、準導師となるものが多い。準導師の主な仕事としては、教養魔術と呼ばれる系統に左右されない魔術を使用する事が多いので、魔術系統に関連していないのだ。そのため、緑や明の準導師が元心の術師でも支障ないのである。
 しかし、やはり自分の特化した才能を発揮したいと考えるのが普通だろう。準導師の就職人気率は心が最も高い。つまり、心の導師に気に入られることで、心の準導師に異動になる事を狙っているということだ。
 ちなみに準導師は助教授、法師は社会で「魔術使い」として生計を立てているもののことだ。術師を学生というのならば、法師は社会人といったところか。
 キサカの一言で理解をしたキースは、再び視線を彼女へ向ける。少し困ったような顔で、準導師の恐々とした動きを見ていた。そして少し話すと、いきなりわたわたと忙しなく動きだす。たぶん、好意でやられている事が嫌なのだ。小さな親切大きなお世話といったところか。そうキサカはつい笑みをもらした。
 大きな音で、昼休み終了の合図が鳴り響いた。十分後には授業開始である。
 二人は食器を片すと食堂を出た。次の教室は共に遠かったものの、見事に正反対の方向にある。走っていかねば間に合わない状況で、キースは去り際に振り返って声を張った。
「キサカ!また後で!」
「おう!」
 キサカも振り返って答える。二人は特に会う予定も無かったが、キースは敢えて「また明日」とは言わなかった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷