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エイユウの話 ~春~

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「今回は僕が謝れば良い問題じゃない」
「え?俺?」
 責められるとは思っていなかったキサカは、食べようとしたご飯をぽとりと皿の中に戻してしまった。しかし確かに今回の事態の原因は、キサカの発言にある。たとえ根本がラジィをかばったキースの一言であったとしても。しかし彼はそれも否定する。
「キサカでもないよ。今回非があるのはラジィだ」
 ラジィを責めるキースを、物珍しそうにキサカは見た。ラジィのためなら気弱ささえ捨てられる彼が、彼女を責めるなんて思わなかったのである。そんな視線にも気付かずに、キースは照れくさそうにお茶を飲んだ。とはいえこの話だけでは、彼の行動の解明にはつながらない。
「それで、そんな中あいつは来るのか?」
「来ないと思う」
 先ほどの予測の肯定を、今度は言葉で返した。キース曰く、ラジィは負けず嫌いのため、やはりなかなか謝らないのだという。つまり、彼が探していたのは淡い期待に過ぎないという事だ。ちなみに何度言っても彼女は聞かないと言う事である。
 キースの行為を無駄だと判断したキサカは、周囲を眺めた。友達同士が楽しげに語らいながら、食事をしているのがほとんどである。こんな中でキースは、彼が来るまで一人寂しく昼食を口にしていたのだ。とはいえ一人で食事をする人間が他にいないほど、ここの食堂は平和ではない。もちろん、周囲一帯まで空席なのはキースくらいだが。一人で食事する人間はだいたい一クラスに一人はいる。仲間はずれにされて、寂しく一人で食べるのだ。
 強いキサカはそれを見て、弱い者同士で食べればいいのにと、ぞくにあまり物扱いを考えてしまう。もしくは、一人で食べるにしてももっと飄々と、堂々と食ってやればいいのだ。仲間はずれにされているとわからないくらいに。そうすれば、少なくとも惨めに思われる事はない。その点で、キースはあんなに空いていたにも関わらず、堂々と食べていた。ラジィと喧嘩したせいか、少しばかし寂しい雰囲気もなきにしもあらずだったが。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷