エイユウの話 ~春~
ゆっくりと時間が経っていく。そのうち、キサカはキースのある行動に気付いた。
彼は何かと入り口の辺りに視線を送っていたのだ。誰かが来ては目を向けて、その誰かを見て消沈する。それは唯一人の少女を探しているというのが一目でわかった。
「まだラジィと喧嘩したままなのか?」
キサカの台詞に、ギクリとキースが振り向く。なんで解ったのかと言わんばかりの顔で見てくるので、キサカはつい笑いそうになった。キースは自分の解りやすさを自覚していないようだ。
「喧嘩じゃねぇだろうけどさ。どうせあれの延長だろ?」
「・・・そうだけど」
キースはしおしおと肯定した。彼に非は無いはずなのだが。
彼の話によると、昨日はあれから会わなかったらしい。そして今日はまだ会えていないのだとか。それどころか、今日一日一緒の授業もないという。つまりどちらかが謝りに動かない限り、仲直りは出来ないということだ。しかし最高術師であるキースはほとんどの時間に授業を入れられており、空きコマは数えるほどしかない。そのため、昼休みに食堂に来る彼女を捕まえるほかないのだ。
ラジィの性格とあの状況を思い返して、キサカは疑問を持った。
「謝りもせずに来る奴なのか?」
あの強気な彼女が、自分から謝るとは思えなかった。だから、彼女は自分たちを避けて動くだろうと簡単に予想もつく。キースはその予想を首肯で返してから、逆接でつなげた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷