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エイユウの話 ~春~

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「すみません。ふざけてたら、頭を壁に打ちつけたみたいで・・・」
 ラジィは驚いてキサカを見る。しかし彼は納得の出来ていなさそうな顔をしていた。いくら嘘をついたって、そんな顔ではばれるのではないかとわかるほどに。
 だからラジィはそれがキースの頼みだと気づいた。
 一方、発言したキサカは、カーテン越しにキースを見た。見えることは無いが、だからこそ呆れたその視線を向けられる。そして彼は嘆息した。
 全く理解できない。ラジィをかばうところまでは解る。しかし、この嘘の意味が全く解らない。キサカの考えだと、どうしても流の導師の行為を進言したほうがいい事だらけになるはずなのだ。また、学校的にもいい結果になるとも感じる。しかし、キースは「君と僕が喧嘩した事にしてくれ」と無理な事を言ってきたのだ。意識の途切れる少し前に。
 けれども保険医の反応を見る限り、事情を知っていたと踏む。なぜなら、喧嘩したと言ってはいても、片や大怪我、片や無傷というのは話が可笑しすぎる。もし知らないのならば、自分は一体どれほど強い男に見えるのだろうかと、キサカは思わず笑みをもらした。もしかしたら、キースが相当弱く見えたのかもしれない。
「笑ってる場合じゃないでしょ!もう馬鹿な事はしないでね!」
 保険医が義務的な叱咤を彼に言った。彼が彼女を皮肉して笑っているのは、彼女自身も感じたはずだ。キースの手当てを手短にすますと、次の授業のために彼女は保健室を出て行った。いつ見ても忙しそうな女性である。
 再び元の位置に座り直したキサカは、顔をキースに向けたまま、微動だにしないラジィに視線を戻した。意識もない人にかばわれて恥ずかしくなったのだろう。茶色の髪が彼女の表情を隠しているので、何も解らない。でも、見えたところで理解できないと、キサカは思っていた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷