エイユウの話 ~春~
「だからといって、暴力はどうですかねぇ、流の導師様?」
突然現れた声に、三人は驚いてそちらを見る。それは、ついてこないように念を押したはずのキサカだった。彼は壁に寄りかかるという体勢で、導師相手に踏ん反りかえっている。そんな彼を見た導師は、当然不快感を見せる。ゆっくりと、キサカのほうに歩を進めた。いや、行き先にキサカがいる、というのも一因だが。しかしキサカの前で足を止めると、顔を動かさずに彼をねめつける。
「ヌアンサ、貴様もサボっていたな」
その言葉にラジィは驚いていたが、キースはやっぱりと納得する。
今回三人がサボった授業は、魔術暦学上級という実力者しか受けられないものだ。普通なら、喉から手が出るほど出たい授業のはずなのである。しかし、これだけではキサカがこの授業を取っている保証はない。
そこで出てくるのが二人の共通する最高術師という立場である。最高術師たるもの、それ以下の術師に劣る部分があってはならないというのが、この学校の考えだ。そのため、最高術師は上級授業を全て強制参加となっている、つまり、キースが出なければならない授業には、必然的にキサカも出るだということだ。
サボりを責められたにも関わらず、彼はその尊厳な態度を崩さない。それどころか、いきなり導師に対して鼻を鳴らした。腕まで組んで、真正面から導師と向き合う。
「私は授業を聞かずとも点数を取れるのでね」
一応導師だということを気づかってはいるのだろうか?彼は一人称を「私」に変え、敬語を織り交ぜていた。といっても、体勢や喋り方、態度から皮肉にしか聞こえない。言葉の内容と、その厭味な敬語に、導師の怒りが増すのも当然の話だ。
「出席が関与せぬ授業は出る必要もないということか?」
「いえ。私も天才ではありません。必要な授業にはきちんと出ていますので、あしからず」
笑顔で肯定してから、わざとらしく一礼をして見せる。そこで導師が初めて顔を歪めた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷