小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

12ピースのパズル

INDEX|18ページ/18ページ|

前のページ
 

彼女も席を立とうとすると、オーナーがデザートを運ぶウエイターとやってきた。
「席にどうぞ。きっと貴女がお好きだとご注文がございました」
彼女は、言葉と態度に席に戻った。
前に置かれたデザートは、彼女の好きなチョコレートが使われたほど良い甘さの
ケーキとそれに合うソルベとフルーツ。そして天使をかたどった飴細工。
「わぁ綺麗。それに可愛いわ」
飴細工の天使が手に持ったリングを差し出しているように見える。
「いただきます。美味しい。でももうこれも食べられなくなるかしらね」
「そちらの箱は何ですか?」
「ああ、これ?彼の忘れ物」
オーナーは近づき、パズルのピースの入ったクリアなケースを手に取った。
「これは特別ですか?十字架を握っているようだ」
「そうですか」
「どんな絵になるのか見せていただけませんか?」
「ええ。もう捨ててくださいね。簡単なのよ、12ピースしかないパズル」
彼女は、テーブルにばらばらっと零すと並べた。
そして最後にクリアなケースのパズルのピースをはめ込んだ。
「なかなか素敵な絵ですね。天使が十字架を抱え微笑んでいる」
「彼、こういうカードどこからか探してくるの。でももうおしまい」
彼女は、パズルを崩した。
ひとつのピースが、床に落ちた。
オーナーは、拾い上げ彼女の掌に渡した。
裏返ったピースのうらに黒いラインが入っていた。
気付いてみると、12ピースの裏に入っている。
彼女は、もう一度パズルを並べ、順番に裏返していった。
彼女は唇に指先を当て、目を閉じた。
ひとつ肩で息をつくと、ゆっくりと目を開け、見つめた。
涙に文字がぼやけていく。
「ほほおーこれはこれは、洒落たことをなさる方ですね」

『けっこんしよう』

「あーすみません。これもお渡ししなくては。預かったメッセージです」

『君がここに来たのなら僕は最後のピースに願いを込めて』
『十字架と天使のリングが揃ったらプロポーズをしよう』
『君の返事が聞けるのはいつかな、ずっと君を待っているよ』

「オーナー。私、間に合うかしら?」
オーナーは優しい笑顔で微笑むだけだった。
「私行ってきます。彼を探さないと」
「そうですね」
「素敵な夜と美味しいお料理をありがとう。メリークリスマス」
彼女は、店を出て行った。
店の煉瓦の塀に凭れる影がひとつ。
「あ、私…」
「何?」
「感動したの」
「そう」
「どうしてここに?」
ハックション(彼)
「遅いよ」
「だって」
「読んだんでしょ」
「え?」
「メッセージ」
「うん」
「ちゃんと書いてあったはずだよ『ずっと君を待っているよ』って」
「うん…」
「うんじゃないでしょ。寒いよ。ハックション」
「温めてあげる」
彼は、彼女を引き寄せ、抱きしめた。
「暖かくないよ」
ふたつの白い息はひとつに溶け合った。

時は、聖夜を迎えた。

     ― 了 ―
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶