不倫ホテル
「嘘だろ・・別れ話にそんな作り話はいらないよ」僕は強がって見せたが不安だった。
「嘘じゃないわ。私が手を上げたら電話が鳴るの・・・」
そう言って、紗枝子は部屋の電気をつけると裸のまま窓際に立ち片手を挙げた。
1秒、2秒、3秒・・紗枝子の電話が鳴った。2回鳴り、その音は切れた。
ハッとしたのとホントだったのかと驚いて、すぐ電気を消した。
「紗枝さん・・・信じられない・・・」
沈黙が襲った。
夜景を背景に裸の彼女は言った。
「ごめんね・・・このままいると優を好きになりそうなの。裏切りたくないの彼を」
「僕を裏切ってるじゃないか!」僕は大きな声で初めて彼女を怒鳴った。
彼女はしゃがみこみ、小さな声で泣き始めた。
僕は紗枝子の光と影、明るい顔と暗い顔を思い出した。そしてその意味を。
電気を消したまま、僕は脱ぎ散らかした自分の服を探し、黙ったまま着た。
ベルトのカチャカチャとする金属音が部屋に響く。
裸のまましゃがみこみ泣いている紗枝子に、うちで買ったドレスをかけてあげ僕はドアを開けて部屋を出た。
後ろを振り向かずに。
思い出を残さないように。
それから二度と彼女と会うことはなかった。
時計の針は今日もゆっくり廻っている・・・・。
(完)