ツイン’ズ
妖狐先生の作ったロボは中にヒトを乗せて初めて起動することができる。操縦者は機械やらパネルやらを操作してロボを動かすのではなく、脳から直接情報をロボに送って自由自在にロボを動かすことができる……らしい、まだ乗ったことがないので何とも言えないが……。
取り合えずスーツに着替えてはみたが……。
「妖狐先生、このスーツ作り直してもらえないだろうか?」
「ダメよぉん、それが最適なんだから」
やはり私の予想を裏切らず、スーツは私の身体のラインを包み隠さず表現してしまった。予想通り恥ずかしいぞ、このスーツ。
「恥ずかしいんですけど……」
「機体に乗れば誰にも見られないから安心しなさい」
「そーゆー問題じゃなくて」
誰かに見られるのは恥ずかしいけど、これを着ている時点で恥ずかしい。
「問題は何もないわ、早く機体に乗り込みなさい」
「…………」
反論したところで、逆にイジメられてしまうのがオチだろう……。私の配下になったとはいえ、未だに私のほうが格が下のような気がするのは私だけだろうか……?
機体に乗り込んだ私はゆったりシートに着席する。前方には外の画面が映し出されている。
《ナオキちゃん聴こえる?》
どこからか妖狐先生の声が聞こえる。
「聞こえてる」
《じゃあ始めるわよぉん》
妖狐先生の声と同時にゼリー状の液体が操縦室に満ちていき、私の身体を包み込んだ。
私を包む液体はひんやりとしていて気持ちいい。
《息はできてる?》
「ああ」
液体は操縦室全体に広がっているが息はできる。どーゆー仕組みかまではしらないがスゴイ。
《発進準備はできてるわ、ナオキちゃんの合図待ちよぉん》
「こちらもいつでもOKだ。カウントダウンをお願いする」
《10、9、8……》
天井のハッチが開かれる。そこから地上へと押し上げられる。
《3、2、1》
「ナオキ行っきま〜す!」
アルテミス初号機の機体が地上へと押し上げられる際のGが私の身体にかかる。まるで遊園地の絶叫マシンみたいな感じだ。
地上の光が見えた。
「いざ、戦場へ!!」
「なんだあの巨大ロボは!?」
取り合えず玉藻邸へと向かった俺だったが、まさかあんなもんに出迎えられようとは予想だにしなかった展開だ。
ブースターで空を飛び巨大ロボの前面に回りこむ。
「……また、玉藻先生の発明か……それにしてもデカイ」
「ん? は〜ははははっナオキ♂ではないか!」
相変わらずバカデカイスピーカーの音だな。近所迷惑だってーの。
「これからおまえを倒すために出向くハズだったのだが手間が省けた……ぷっ、なんだそのヘッポコな格好は!?」
「星川デザイン&発明のパワードスーツだ」
「星川?」
「1年の星川財閥の御曹子」
「あいつが!?」
「科学者だったらしい」
「なるほど……しかし、そんなヘッポコデザインのスーツにこの妖狐先生発明のアルテミス初号機が負けるわけないだろう!」
……な〜んだ。てっきり俺はタロウくん4号って名前だと思ってた。
なんてことを思っていたらタロウくん……じゃなかったアルテミスの右フックが俺に繰り出されているではないか!! 反則だ、不意打ちは反則だぞ!!
俺はどうにかパンチを両手で喰い止めた。このスーツ結構すごいじゃん、星川くんちょっと疑ってました。だが空中でパンチを受けたために支えが何も無い。つまり俺の身体は後方にぶっ飛んだ。その距離約100メートル……これだけで済んだのはブースターによるところが強い。もし、ブースターがなかったらどこまで飛ばされていたことか?
「行き成り攻撃してくるなんて卑怯だぞ!」
「実戦において卑怯もなにもない、最後に立ってた方が勝ちだ」
「なるほど俺’のいうとおりかもしれない」
……じゃなかった。やられたのは俺だ。やった方が俺ならともかく、やられたのが俺ならば、あいつは卑怯だ。そういう方程式が俺の中では成り立つ。
「つまりおまえは卑怯者だ俺’」
「だから、実戦に卑怯もなにもあるか!」
「それは男の道に外れているぞ!! 男ならば正々堂々と戦うべきだ」
「私は男ではない、女だ!」
しまった、間違えた。話を摩り替えねば……。
「そんなことはどーでもいい!」
「支離滅裂だぞ」
「支離滅裂がどうした? この世界は矛盾と混沌によって作られているんだ、細かい事は気にするな」
言ってる自分でもわけがわからん。だが最終的に相手を丸め込めばいいんだ。そうだ、そうに違いない。そう自分に言い聞かせて前へ突き進め俺!
「とにかく細かい事はどーでもいい。俺が言いたいのはオマエが卑怯者ってことだ!!」
「だから何度も言わせるな、私は卑怯なんかじゃない」
「チチチッ」
俺は人差し指を横に振りながら言った。
「オマエは卑怯者だ。なぜならば私は正義の味方でオマエは悪だからだ!!」
「どーゆー原理だそれは?」
全くもってどーゆー原理だ。早くこじ付けを考えなければ……。
「俺は正義でオマエは悪、つまり……つまり……」
「つまり?」
「つまりここでオマエと戦えば地域住民に被害が出る、正義の味方の俺としてはここで戦うわけにはいかない。だがオマエはそんなことにもお構いなく俺に攻撃をした。つまりオマエは卑怯で絶対超悪だ!!」
「さっきから私を悪者扱いして、悪と善など思想の違いにすぎない。どちらが良い悪いなどは無いのだ!!」
「世界征服なんてあからさまに悪いことだろ! 俺はこの世界を守るために戦ってんだ!!」
「私だって世界を手に入れた暁には、自分の世界を守るために戦う!」
こいつも俺と一緒でテキトーなことばっか言ってるように思えてならない。
「とにかく世界征服は悪い、オマエは悪だ!」
「思想の違いだって言ってるだろう! だが、たしかに地域住民に被害を出すのは善くない。着いて来い直樹♂」
「どこに行くんだ!?」
「学校だ」
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)