ツイン’ズ
07_打ち切りだ!?
「ふはははは〜っごほっ、逃がさんぞ直樹♂……げほっ」
俺たちの前に現われのは当たり前の如く俺’だった。しかし、様子がおかしい、明らかに弱っている。
「どうしたんだ俺’?」
「どうしたもこうもない。何だ奴らの理不尽極まりない奇襲攻撃は!!」
そう言って俺’がバシッとビシッと指差したのは美咲と宙だった。
……たしかにこの二人はどうやってここに来たんだ? ……あの時の爆発音はいったい?
まったくもって人生というのは試練の連続だ。いや違う。私は絶対運命の女神にもてあそばれている――。
「さてと、昼食もとり終えたことだしさっきの続きを話ししよう」
私はティーカップに手を伸ばしつつ、妖孤と愛に目を向けた。妖孤先生はノートパソコンのディスプレイにわけのわからない公式を打ち込んでいる。愛は私のことをまるで睨んでいるような目つきでさっきから私を見ている。何かしたか私は?
「もう一人の直樹は本当に消えてしまうのか?」
つまり、それが原因というわけか……。
「直樹♂は私の人格に呑まれて消える」
「そうか……」
愛はうつむきそれ以上口を開こうとはしなかった。
「妖孤先生、あれの製作は順調かい?」
「もうすぐ完成ってとこかしらん。そうねん、でも肝心なパーツが足りないのよねぇん」
「それは何だ?」
「さぁねん?」
「はい?」
「だからわたしにもわからないのよねぇん」
「超天才可学者の妖孤先生にもわからないことがあるのか!?」
これは驚きだ。何でも可能にする学問可学を重んじる妖狐先生にもわからないことがあるとは……? だがパーツとはなんだ?
ブリキのガシャガシャという音がしたかと思うとタロウくん1号が慌てたようすで私たちの前に現れた。
「大変デス、ナオキ♂ガ腕ヲ負傷シマシタ」
妖狐先生がキーボードを打つ手を止めた。
「直樹くんが腕を怪我したの? ダメじゃない、大事なモルモットなんだから。それで、なんで怪我なんてしたの?」
「ソレガ私ヲ素手デ殴ッタ際ニ右手ヲ負傷シタ模様デス。恐ラク骨折シタノデハナイデショウカ」
あいつはアホか……。タロウくんを素手で殴るなんて……アホだな。
長いこと黙っていた愛が私のことを見て言った。
「直樹も莫迦なことをするな……だが、直樹が莫迦ならばこちらにいるナオキ♀も……もいうことか?」
これは喧嘩を売られたと解釈するべきなのだろうか?
「あらんさすがは愛ちゃん、いいこと言うわねぇん」
つまりこれは二人に喧嘩を売られているということなのか? ふっ……まあいい、この程度のことをいちいち気にしていたら大物にはなれないからな。
「仕方ない、直樹♂のために医者を呼べ」
「それは駄目よ、ここに部外者を呼ぶのは得策とは言えないわ。そうねここはわたしのお友達の如月先生を呼ぼうかしらん?」
「「あれをか?」」
私と愛の声が重なった。あいつは駄目だ絶対に……。
「どうしてかしらん? 如月先生はいい先生じゃない?」
「「どこがだ!!」」
また声が重なった。あんな先生とは関わり合いを持ちたくない。
如月先生(♂)とはうちの学校の保健室の先生なのだが、何が駄目って妖狐先生と肩を並べるトンデモさんだからだ。妖狐先生がマッドサイエンティストなら、如月先生はマッドドクターだ。たしかにあの先生は腕はいい、それは認めるし、保健室の先生というより医者に近い。だが問題は無免許で人の腹を開けようとすることだ。噂では病院にいけないヤバイ人たちとか、病院でも治せない患者を法外な値段で手術を引き受けて治療しているとか……。
そんな裏の世界に通じてるドクターと関わり合いは持ちたくない。つまり断固あれを呼ぶのは反対だ。
「駄目だ、如月先生は呼ばない。それに直樹♂が本当に骨折したのかわからないだろ? 演技かもしれない、ちゃんと見てきた方がいい」
「それには私も同感だ。如月先生を呼ぶことはないだろう」
ピンポーンというチャイムが家の中に響き渡った。客か? まさか如月先生か? なんてことはないと思うが……?
「タロウくん1号ちょっと見てきてくれ」
「カシコマリマシタ、ナオキ様」
タロウくん1号が玄関に向かってからややあって、タロウくん1号は二人の客人を連れて帰って来た。
「ナオキ様、オ客様ヲオ連レ致シマシタ」
「……ってなんでこいつらを家の中に入れるんだ!?」
私、そして妖狐先生と愛両名の視線が二人の女の子に注がれた。
「……ぉじゃまします」
「こんにちわ」
……宙と美咲がなんでここに!? ってタロウくんなんで二人を中に入れた!?
「……それは、タロウくん1号がダメロボットだから」
ありがとう宙、的確な指摘。
「……それはどうぃたしまして」
……思考を読まれているのかこれは!? ヤバイ、宙を敵に回すなんて……? 敵? まだ敵に回したわけじゃないかった。
「……それは違ぅ……ぁなたはアタシの敵」
この場にいた全員が私のことを哀れな目で見た。私は今宙に死の宣告を受けたも同然の『ぁなたは私の敵』宣言を受けてしまったのだから。
妖狐先生が私の肩に手を軽く乗せた。
「がんばるのよナオキちゃん、人生山あり谷ありっていうじゃない」
そんな励ましはいいですから、どうにかしてください。
他人事を楽しむタイプの妖狐先生を宙がじっと見ている。
「……玉藻先生……ぁなたもアタシの敵だから」
この言葉に妖狐先生の顔は見事に凍りついた。さすがのマッドサエンティストも宙には弱いらしい。
「わ、わたしがなんで宙ちゃんの敵なのかしらん?」
「……それは難しぃ質問……代わりにオレ様が答えてやるぜ」
宙の口調が途中で変わった。アリスだ。
「敵は敵だから敵なんだよバ〜カ」
それは答えになってないぞアリス。おまえの方がよっぽどバ〜カだ。
バシッっとアリスの平手打ちが私の顔面にヒットした。これでアリスにも喧嘩を売ってはいけないことを私は再確認させられた。
私たちの漫才を見ていた美咲が呆れたような口調で言った。
「ようするに私たちは直樹を助けに来たの。だから早く直樹帰してくれない?」
黒いドレスが揺れた。
「それは残念だができない」
黒いドレスに身を包んだ愛はヘッポコ光線銃(今日の友は明日の敵銃)を美咲に向かって、その銃口を向けていた。
美咲は反射的に手を上げる。だが宙は全く動じず空を見上げた。――次の瞬間!
爆発音と共に辺りが煙に包まれ視界がゼロとなった。なにが起きた!?
煙はすぐに晴れて来た。だが大分器官をやられた咳きが少し出る。
「ごほっ、どうした何があった!?」
私が辺りを見回すと、床には妖狐先生と愛とタロウくん1号が倒れているではないか!? これはいったい何事だ?
「なにが……!! 二人は何処に行った!?」
宙と美咲も姿が無い。どこだ、どこに行った。……くっ、恐ら地下だな。
私は急いで地下へと向かったのだった――。
なんだ俺’の奴。さっきっから黙っちゃって、何考えてるんだ?
それより、あの爆発音は?
「ぁれはね……」
宙はその名前のとおり、天井ではなくその上にある広大な星々を《視た》。まさに電波系である特権……なのか!?
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)