ツイン’ズ
黒スーツから開放された玉藻先生は直ぐにマナに駆け寄りこう言った。
「大丈夫、本当にごめんなさいね」
「気にするな、それより先生方は緊急ミーティングをするのですぐに集まるように」
「わかったわ」
玉藻先生はちょっと反省の色を浮かべ、直ぐにどっかに行ってしまった。
「阿倍野先生も直ぐに行って下さい」
聖明先生も愛に言われると直ぐにどっかに行ってしまった。うん、さすがは愛、居るのか居ないのか一度も顔を見たことない学園長よりよっぽど役に立つ。……待てよ、玉藻先生には聞きたいことが山ほどあったんだけど――。ま、いいか。
「直樹、何ぼさっと立っている、私たちも生徒会役員を集めて緊急ミーティングだ」
「あ、あぁ」
そんなこんなで俺と愛は役員達を手分けして見つけ出し、緊急ミーティングをすることになった。
この場に集まったのは、まず生徒会長の『鳴海愛』、副会長の俺(『時雨直樹』)、書記『見上宙』、もうひとり書記『椎凪翼[シイナギツバサ]』、会計『百瀬真一[モモセシンイチ]』+女の子?(誰だこいつ)以上男子3名女子3名。
愛が咳払いを一つして話を切り出した。
「君たちにここに集まってもらったのは他でもない」
「学校消滅の件でしょ?」
途中で口を挟んできたのはナルシストでフェイシング野郎の1年の椎凪だ。こいつは顔はそこそこイケてるがいつもフェイシングの剣を常備していて、フッとか言っていつも髪をかき上げてて、王子様系好きの女子からの支持率が異様に高い。
アリスが突然しゃべりだした。
「オレは知ってるぞ、ガッコーを壊したのはナオキだ!」
この場の全員の視線がオレに集中した。そんな目で俺見るな照れるだろ。
「俺じゃないぞ、宙が言いたいのは」
「アリス……が」
宙の微妙なツッコミが入るが今は無視。
「俺じゃなくて、俺’のことだ!」
宙を抜かして全員が『は?』っていう表情を浮かべた。
「つまり……こぅぃぅこと……」
宙が俺の変わりに説明してくれた。……待てよ、俺お前に詳しいこと話してないぞ?
てこともあったけど、それは宙が電波系だからということで俺の中で片付き、宙の説明は俺の言いたいことを全部言ってくれた。それを聞いたみんなはまた『は?』って表情をしたが、そんな中ただひとりその話を信じてくれる奴がいた。そいつは1年の百瀬、通称『真ちゃん』。
「先輩、僕は信じますよ、世の中には不思議なことがあるもんです。現に僕の身にも……」
そう言って彼は自分の横にべったりとくっ付いている女の子を見た。それがどうかしたのか? この学校の制服は着てないみたいだし、どこの子だろ? よく見るとスゴイ可愛いぞ、しかも何だか知らんが気品があるというかなんというか? まぁいいや、真ちゃんが信じてくれるならそれでいいか。
『ううん』とまた愛が咳払いをした。
「直樹が二人になったという話はさて置き、学校を破壊したのは玉藻先生の作ったロボットだということは宙と直樹の証言から明らかだ。百瀬君、玉藻先生を呼んで来てくれるか?」
「あ、はい、直ぐに行って来ます」
そう言って真ちゃんは玉藻先生を探しに行ってしまった。そして、その後を謎の女の子も付いて行った。……いったいあの女の子は何なんだ?
程なくして真ちゃんが玉藻戦線を連れてここに戻って来た。ちなみにここはグランドの中心で、しかも冬で寒いので焚き火をしながら、みんなで『寒いね』とか言って会議をしてたりする。
「百瀬君ご苦労だった」
愛はそう言うと直ぐに玉藻先生に目を向け話始めた。
「学校を破壊したのは玉藻先生の発明したロボットだとお伺いしましたが、詳しい事情をお聞かせ願えますか?」
そうこれは俺も詳しく知りたいことだ。だが今の俺にはもっと気になることがあった。それは……真ちゃんといた女の子どこ行った? 真ちゃんがここに戻って来た時にはもうすでに彼女の姿はなかった。真冬のミステリー!?
玉藻先生は無意味に遠くを眺めて愛の質問をかるーくシカトしようとしている。これを見た愛の目つきは極悪に変わってる、てゆーか愛って結構キレやすいよな。
「玉藻先生、学校を破壊したと思われるロボットの名前がタロウくん3号と言う名前らしいのですが?」
愛はもろ疑いに眼差しで玉藻先生を見てる。
「さぁ、タロウくんなんて名前のロボットどこにでもいるから」
これに対して真ちゃんが空かさずツッコミを入れる。
「あのぉ〜先生、タロウくんって名前のロボットなんてそうはいないと思いますけど」
「そうかしらん?」
玉藻先生、あんたはどこまでシラを切る気なんだ、ここは俺が一つガツンと証拠を……証拠なんてないぞ、物的証拠が!
宙が突然何かを思い立ったように動き出し、玉藻先生の真ん前までスタスタと歩いていくと、アリス人形を玉藻先生の眼前にググっと近づけこう言った(アリスがね)。
「妖狐、ナオキが学校を壊した時おまえもいたろ!」
アリスが見てたってことは、必然的に宙も見てたことになりだ、宙が見ていたってことは他の人も見ていた可能性が高い。とまぁ、そんな感じの考えが浮かんだ俺は宙に空かさずこの質問。
「いつ見たの?」
「……昨日の夜」
宙のこの言葉を聞いた全員が『は?』って表情をいっせいにした。
……宙、おまえさぁ今日の朝会った時、おまえっていうかアリスが『ガッコ―は吹っ飛んでたゾ、だから帰って来た』って『帰って来た』そういうことは……夜から学校にというか会ったの朝だぞ……? 頭が混乱して来た。
とまぁ、宙以外が混乱しているのに乗じて玉藻先生は、
「あたしなにも知らないから」
と言ってこの場から逃げようとしたが、宙が玉藻先生の白衣をきゅっと掴んで放さない。
「放してくれないかしら?」
「……狐は嘘を付くのがぅまぃのね」
この言葉に玉藻先生の目つきがすっげー鋭くなった。理由はあれだな、あれっていうのはこの学校で噂されてる玉藻先生の秘密。
噂その1、学校にどこかにあるといわれる『学校非公認の妖狐ちゃん研究室』。これの説明は特にしなくてもいいか。学校も壊れちゃったし。
噂その2、『玉藻先生年齢偽証疑惑』。この学校は今年で設立20周年らしいんだけど、玉藻先生って設立からずっとここの教員やってるらしいんだよな、でも玉藻先生ってどう見ても20代半ばか後半で、これも可学に力なのか?
噂その3、『玉藻先生妖怪疑惑』、これは古典の聖明先生が言い出したんだけど、どうやら玉藻先生は狐の妖怪らしい、ってそんなこと信じられ……るかも。
玉藻先生は白衣を掴む宙の指をゆっくりと外して、さっさと姿を消してしまった。この瞬間、生徒役員たちは混乱状態から我に返った。そして、真ちゃんが一言。
「……あ、逃げられた」
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)