ツイン’ズ
04_学校が無い!?
学校に着いた俺は愕然とした。なぜって、そりゃー。
「……マジで学校が無いじゃんみたいな」
そこに空かさずアリスの突っ込みが入る。
「だから言っただろ、マヌケ!」
またもアリスの平手打ちが俺の頬に決まり、バシ! という音が鳴り響く。……本気で殴りやがった。
俺がアリスの操縦者を見るとそいつは無表情のまま言葉を返してきた。
「ワタシじゃなぃよ……アリスが殴ったの」
てゆーか、お前だろ!
上目遣いで小悪魔は俺に電波を飛ばす。……く、苦しい。
小悪魔が俺から目線を外した瞬間、息ができるようになった。……恐るべし電波少女。
ってそんなことは今はどうでもいい、今は学校が無いという緊急事態の方が大事だ。しかし、俺にはどうすることもできない。……無力だ、人間なんてこんなもんさ……フッ。
ここに集まっている多くの学生から、近所のオバサン、警察の人、みんな慌てたり騒いだり宴会をするだけでどうすることもできない。
宙が俺のことを見つめている。俺に惚れたのか?
「……直樹くん、あなたの責任」
「はっ?」
「ぁなたの片割れがやったことはぁなたの責任でもぁるから」
「何であいつのやったことが俺の責任になるんだ?」
「ぁの子はたぶん……」
「あの子はたぶん?」
とその時?飛んだ?邪魔が入った。たたでさえ小さい宙の声がヘリコプターの羽の回転音によってかき消された。
学校にヘリコプター、不釣合いだ。
学校にヘリが来る可能性はいろいろある。例えば、この学校消滅事件をテロと勘違いして国が特殊部隊を派遣したとかっていったことが考えられるが、だが俺は知っている、このヘリがここに来た目的を。このヘリの音は毎朝聞かされている、そうあいつだ、あいつに違いない!!
ヘリは強烈な風を巻き起こしながら、ゆっくりと地面に降り立ち、中から人が出てきた。
その容貌は変わっている、全身黒ずくめのドレス姿、長いさらさらした黒髪を風になびかせながら、黒い日傘をさしている。いわゆるゴスロリ。そう、この人こそ、学校、いやこの辺一帯、いやもっとか――とにかく超有名な大金持ちの令嬢で、この学校の名物超美人ゴスロリ生徒会長『鳴海愛[ナルミマナ]』その人だ。
彼女の美しさはハンパじゃない、現に今も女性・男性(女性の方が比率が多い)の目線が彼女に釘づけだ。『キャー愛様』なんて声も聞こえたりもする。
俺もこの学校じゃ、そこそこ人気があるが彼女の足元にも及ばない。
そんな彼女が俺のそばに近づいて来た。ちなみに俺は副会長で彼女と仲が良かったりする。
「おはよう直樹」
少し低めの声が俺の心を鷲掴み、何度聞いても愛の声は痺れていまう。
「ヘリの上から見たが、何故学校が無い?」
愛の質問は誰しもが疑問に思うことだ。
「それはだな……巨大ロボットが学校をズドーンと」
俺の言葉に愛の眉間にしわがよる。この時の彼女は目つき極悪。
「玉藻の仕業か?」
「作ったのは玉藻先生だと思う」
しかし、ロボットと聞いて玉藻先生の名前が出るところがこの学校の生徒だ。普通ならロボットなんて、そんなことあるわけないだろと言われてしまうに違いない。素っ頓狂なこの学校ならではの会話だ。
宙が突然、何かに向かって指をさした。
「そうか、ありがとう宙」
それを見た愛はこう言ったのだが、俺にはさっぱり理解不能だ。しかも宙の次の一言も意味不明だった。
「ぅん……わかった」
ね? なんのことだかわかんないでしょ。でこのことを俺はあとで愛に聞いてみたら返ってきた返答がこれだった。愛は最初に『玉藻はどこにいる?』というのを頭の中で考えて、その答えとして宙がアンテナ(前髪)で玉藻先生の居所をキャッチして指をさして、そのことに対して愛は『そうか、ありがとう宙』と言って、そのあと愛が頭ん中で『宙、先生たちを集めて今後の授業日程を立てるように言って来てくれないか?』と宙に伝えたらしい。
……驚きだ、あの一瞬にこんなことが繰り広げられていたなんて。そうそう、ちなみに宙は生徒会役員(書記)として愛の右腕として働いてるんだよね。ある意味最強タッグだね。
愛が宙の指差した方角へと歩いていく。俺はそれを見送ろうとしたのだが、
「直樹も来い」
とのご命令が、できれば行きたくないが。だって嫌な予感がするんだもん。しかし俺は勇敢にも愛の後を付いて行った。
学校のグランドには人、人、人だかりができていたが、愛を見るや否やみんな道を丁重に開けてくれた。そして、愛の足が止まった。
「はぁ〜、またか」
愛は深くため息をつき片手をおでこに当て頭を抱えた。ちょっと愛らしい仕草だ。
俺の目の前には二人の人物を残して中心に10メートルほどの人のいない空間が。その空いた空間にいるのはご存知玉藻先生ともうひとり、この学校の名物教師のひとり、『阿倍野聖明[アベノセイメイ]』先生(古典担当)の姿があった。てゆーかこの学校って名物な人が多いよな……。
この二人は学校の廊下ですれ違うたびに喧嘩をする超悪い仲で、今回も喧嘩をしていることは明白だった。
「玉藻先生、今日こそは決着を付けましょう」
そう言って聖明先生は地面を蹴って軽やかにジャンプして、上空から御札を玉藻先生に投げつけた。みごとなジャンプだ、体育教師の方が向いてるかも。
「そんな御札『可学』の前では無力よ」
そう言って玉藻先生は白衣の下から機関銃を取り出し聖明先生に向けて乱射した。おいそれはいくらなんでもやりすぎだろ! ちなみに『可学』っていうのはなんでも『可能』にする学問らしいです(玉藻先生いわく)。
二人の戦いはどんどん時間をおうごとにデットヒートしていく。かなりすんげえ戦いだ。何がスゴイって、玉藻先生は機関銃乱射だし、聖明先生の投げた御札は原理はよくわかんないけど爆発するし、しかも聖明先生の周りには変な妖怪みたいなのがいるし、何だよあれ目の錯覚かよ、おばけかよ、式神かよ、赤かよ! って最後のは言ってみたかっただけだけど。
そんな戦いを見かねた愛が戦いの最前線の中に歩いて行った。俺なら絶対行かない。あの中に一般人が入ることは死を意味する。
「二人とも止めないか!!」
完全な無視だった。二人の耳には愛の声など入らない、てゆーか、二人の真ん中に立ってるのに気付きもしない。この時、俺の中で二人はシカト・オブ・クィーン&キングに輝いた。
そんなことを考えてたら、愛の身に一大事件が起こっちゃったのさぁ。まぁホント大変。
何が起こったのかというとだ。玉藻先生の放った銃弾が愛の頬をかすめて愛の白いほおに赤い線が一筋ぴゅっと入った瞬間、何処からともなく現われた黒スーツの男達によって玉藻先生は捕り押えられてしまったのだ。
この黒スーツの男たちは愛のボディーガードで愛の身の安全を24時間守っているらしい。……お風呂とかトイレも見張っているのだろうか? そんなくだらない考えが俺の頭を過ぎった。
愛はポケットからハンカチ(黒地に白レース)を自らの頬に当てこう言った。
「不可抗力だ、放してやれ」
黒スーツの男たちは直ぐに何処かに消えてしまった。ホントに何処に消えたのかわかんないんだよねこれが。
作品名:ツイン’ズ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)