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株式会社神宮司の小規模な事件簿

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 さて時日が立つのは早いもので門吉の問題発言から五日つまりは一週間も経たぬうちに我等が神宮司株式会社本社オフィスでは課長部長三島由紀夫疑惑が流布しきっていた。それというのも何だかんだで皆純粋な社員が多いからである。それというのも社長が割合屈折した人間なので社長の好みが反映されてしまったからである。
「君ぃ」
 部長のご出勤だ。部長は登場する時必ず威圧的な物言いをすることにしている。
 声をかけられた女子社員はお得意のタップダンスでミ・シ・マとモールス信号を打った。
 耳が遠くなりつつある部長はぱちりとウィンクをした。
「糸蒟蒻食べるぅ?」
ちなみに威圧的な物言いをした後にお茶目な物言いをすることが部長の日課である。
 部長は全体的に丸く白く目が細く口角がほんわかとした容貌をしていたので全体的にほんわかであった。そんなほんわか部長に糸蒟蒻を差し出された女子社員は素直に受けとることしか出来ず、仕方無くタップダンスをしながら自分の席に戻って行った。
「部長」
 そこへ現れたが課長である。皆ひょいと息を飲んだ。
「部長が欲しがっていたモモンガクッションがヤフオクに出てましたよ。」
 仕方がないので説明するが課長は舘ひろしと綾瀬はるかを足して2で割ってソフトクリームを足した様なつまり悪くはないが説明しづらい容貌をしていた。
 オ・イ・オ・イ・ナ・カ・ガ・イ・イ・ナ・コ・ン・ニ・ャ・ロというモールス信号。
 オフィス中が何とも言えない妙な雰囲気になってしまった。皆何だか疲れてしまった。これというのも皆門吉のせいだ。皆一斉に門吉の方を向いた。門吉は仕事をしていた。部長と課長は今度二人でモモンガ探しに行こう等と和気藹々語り合っている。皆ストレス性胃炎になった。とそこへ社長が入社してきた。
 社長はいつもの通りいつもの如くキラキラと背景に薔薇を乗せている。脇には何か袋に入ったふかふかと柔らかそうなものを二つ抱えていた。社長は徐に一つの袋に腕をつっこむと引っこ抜いた。そのまま口許に手を運んでいき何やら美味そうな黄色のふわふわを食べ始めた。どうやらカステラの様である。ワイルドな社長に社員一同はしばしストレスを忘れうっとりと見いっていた。
 社長は拳大のカステラを一口で食べながら尋ねた。「どうしてこうも我が社員は私が来るたびに仕事を止めてしまうかな。普通逆では無いのかな?仕事をしているのは犬山君だけではないか。犬山君糖分でも取りたまえ。」
 門吉は独り言を突如開始した。門吉は独り言以外は吃りぎみになる為独り言か否かの判断はすぐに出来るのである。気が付かないのは社長だけであった。
「なにぃ?こんなことはあるのだろうか。どうしてあのほんわかたちは相も変わらず仲良くやっているのだ。上に立つものとして恥ずかしく無いのか。いやなに男性同士なのは問題ない。個人の自由であるからな。しかしだ、果たして社員一同が仕事中だというのにその様なことをしていていいものか。答えは否だ。如何にして誰も糾弾しないのか。ほんわかオーラに負けているというのか。」
「犬山君カステラが欲しいならそんな回りくどい言い方をする必要は無いのだよ。」社長はぐいと門吉の口にカステラをつっこんだ。
 門吉はごふごふ咳き込みながらもふもふ食べる。「これはたまらんわい。おとがいがおつるようじゃ。」門吉はあまりの美味さに舌鼓を打った。
 オ・イ・オ・イ・ウ・マ・ソ・ウ・ダ・ナというモールス信号。
「やはりここは私がはっきりと申し上げるべきであろうか。果たして部長と課長の関係性は。しかして知りたくもあり知りたくもない気持ちもある。何分彼等お年頃であるからな。若々しい新入社員同士ならまだしもお年頃の男たちはううむ少なからず見苦しい。」
 社長はカステラを手で千切るのが面倒になったと見えそのままかじり始めた。そしてかじりながら門吉を見た。
「課長殿と部長殿は夫婦だ。知らなかったのか君。」
 門吉は鼻唄を歌い始めた。
 ♪パラレルパラレルパラレルワールド


 オ・イ・オ・イ・オ・イ・オ・イ・ド・ウ・ナ・ッ・テ・ン・ダ・コ・リ・ャ・ア・リ・エ・ネ・エ・ダ・ロ・ア・リ・ャ・ト・イ・ウ・カ・イ・ッ・タ・イ・ゼ・ン・タ・イ・ド・ッ・チ・ガ・オ・ン・ナ・ナ・ン・ダ・ヨ・リ・ョ・ウ・ホ・ウ・オ・ヤ・ジ・ニ・シ・カ・ミ・エ・ナ・イ・ダ…「ろぃっぐはぁっ…」
 モールス信号女子社員は動揺のあまりモールス信号を失敗し有り得ぬ方向に足を捻らせてしまった。泡を吹いている。
 社長は静まりかえる社内に気付かぬまま女子社員を見下ろした。
 「体調不良か?仕方在るまい。この枕を使いたまえ。」
 社長はカステラの入っていない方の袋からモモンガクッションを取り出したのだった。