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株式会社神宮司の小規模な事件簿

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 それは佐藤花子という女子社員が泣きながらオフィスに走りこんできたことから始まった。
 彼女は社内で二つのことで有名であった。
 一つはその美貌である。
 つんとした冷たい瞳に驚くほど小さな顔、そしてすらりとしたモデルの様な体型の持ち主であった。ちなみに彼女のファンは社内外問わず多数存在する。
 二つ目は彼女自身が社長の大ファンであるということだ。
 彼女はことあるごとに社長の美しさについて語り寝るまも惜しんで社長観察ブログをアップしブロマイドを製作し愛のポエムを創作していた。その奇行に気付いていないのは社長一人であった。
 とにもかくにもその目立ちすぎる佐藤花子が泣きながらオフィスに走りこんできたのである。嫌がおうでもその場にいた社員の目についた。
「どうしたのですか佐藤さん。」社員Aである。 という他無いくらい印象の薄い男であった。
 佐藤花子はさめざめと泣くばかりである。
「どうしたのですか佐藤さん。」社員Bである。という他無いくらい印象の薄い男であった。
 佐藤花子はさめざめと泣くばかりである。
「どうしたのですか佐藤さん。」そこそこのイケメン社員若松太郎氏である。
 佐藤花子はわずかながら顔を上げ、とつとつと語り始めた。
「ひゃっひゃっひゃひょうが…うぐうぐ。」
「無理をしてはいけない。ヒョウがどうしたのです?」
「ひゃっひゃっひゃちょう…しゃひょう…」
「何、車掌がいかがしましたか?」
「しっ社長が…社長が」
「む?社長?無論神宮司社長のことでございますな?」
「社長が…じょっ女子高生を買っていたのでございます!!!」
 オフィス中に激震が走った。
 佐藤花子は叫び終えるとまたもさめざめと泣き始める。社長狂信教の佐藤花子がわざわざ社長の評判を陥れるような嘘を言うはずがないのだから事実であろうが如何せん簡単には信じられぬことであった。さすがの若松氏も若干の動揺を抑えられぬまま反論を行ってみた。
「何を言っているのです。神宮司社長は確かまだたったの26、7歳。ましてやあの美貌と才覚であったのなら女子高生など買わずとも女性関係はよりどりみどりなのでは?」
 なるほど最もな意見である。
 その場にいた社員のほとんどが納得しかけた。佐藤花子を除いては。
 佐藤花子はキッとした燃える様な瞳で挑戦的に若松氏を見上げた。
「私は見てしまったのでございますっ!」
 あまりの剣幕にさすがの若松氏もたじろいでしまう。
「それではどのような場面だったのですか。」
「女子高生が社長の肩に頭をもたせかけ『パパ、パパ鷹匠がいいわ。』とねだっている現場をですわ!!」
 これには若松含め社員の全員が絶句した。と、そこへ我等が神宮司社長がオフィスに帰ってきたのである。
「諸君仕事をしたまえ。」
 ひょうひょうとした声で話す彼の隣にはあろうことか女子高生が立っていた。