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株式会社神宮司の小規模な事件簿

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 神宮司社長の隣に立つ女子高生はなるほどモデルの様にすらりとした体を持っていた。若い分佐藤花子よりもほっそりとしている。そして真っ白な肌に大きく印象的な黒目。さらりとしたロングの黒髪が彼女がわずかに動くたびに揺れている。確かに美貌でこそは同等であってもそこに若さを付け足せば佐藤花子が勝てる相手では無いのであった。
 それにしても職権乱用甚だ許される事態ではない。係長及びそれ以下は動揺した。
 部長と課長は今頃草津温泉にいるため留守なのである。
 中でも怒りにうち震えていたのは当然過ぎるほど当然な佐藤花子であった。彼女の五重塔より高いプライドは既にずたぼろであったのだ。
 一方の若松氏は困惑していた。真面目も真面目天使の様に純真な心を持つ若松氏はこの場で神宮司を糾弾すべきか否か悩んでいたのである。非常識行為であるのは全く否定出来ないが彼は腐っても社長であった。単なる平社員風情の自分が社長をオフィスで糾弾してもいいものだろうか。彼は悩んでいた。
 そんな重苦しい沈黙を初めに破ったのは女子高生であった。
「パパの会社って暗いわ。」
 お前のせいだ!と誰もが叫びそうになりグッとこらえた。佐藤花子を除いて。
「お前のせいだ!」
「おや。君は確か佐藤花子君。一体如何にして社員全員が仕事もせず仁王立ちしているか教えてくれるかい。係長にいたっては携帯クリーナーとあんパンを間違えているではないか。携帯電話には便器並の雑菌が繁殖しているとの説もある。不衛生だ棄てたまえ。」
 係長は慌ててあんこのついた携帯をゴミ箱に投げ入れた。神宮司は呆然とした顔で溜め息をついた。
「君君棄てるのは逆だ。やはり勘違いしているな。」
 女子高生はつんとすました表情で尋ねる。
「パパの部下は馬鹿なの?」
「いや、でも彼等はよく私には理解出来ないことで騒いでいる。今回もそういった類だろう。」
「社長は騙されています!!」我等が佐藤花子がついに核心に触れた。皆の寿命が3年縮まる。
 神宮司ははてなと首を傾げて花子を見つめた。
「その女は恋人がいるのですっ!社長と30分程別れている間にこやつは青のYシャツを着た身長170センチ前後若干顎のずれた男とカフェで会っていたのです!!」佐藤花子は美しい髪をまばらにしぜいぜいと巻くし立てた。
 神宮司ははてなと首を傾げて女子高生を見つめた。
「都、早乙女君は口からオットセイの匂いがするから嫌なのではなかったのかい?」
「嫌よ。でもあの人の顎、性的にくすぐられるんですもの。」
「鷹匠との見合いを所望していたのではないのか?」
「無論そちらも検討中よ。」
 社員一同は呆気になっている。都と呼ばれた女子高生は鼻唄を歌いながら廊下へ向かう。
「珈琲いれてくるわ。」
 そこへ草津温泉から帰ってきた部長と課長に鉢合わせしてしまった。
 全員がヒッと息を飲む。
 ところがそれよりも高らかに息を飲んだのはあろうことかその二人であった。二人は土産のまんじゅうをぼとぼとととりおとす。「ここここれは都お嬢さん!ししししかしなぜ」
「ちょっと珈琲を飲みに。」都はぱちくりと上目使いをしてみせる。
 これを聞いた部長はまだら色になり卒倒しかけた。
 課長はそんな部長を支えながらぶるぶると震える唇で必死に叫ぶ。「おいい!おいい!誰か都お嬢さんに珈琲を入れに行かんか!」
「別にいいのよ。皆さん何やら混乱しているし。」
 佐藤花子は今や虫の息になっていた。ぜえいぜえいと首をしめんばかりに課長と部長に近付いていく。
 課長と部長はひいいいと小さな悲鳴を上げた。
「ななななひゃっひゃっひゃひょう」
「なっなんだねっ」
「ひゃひょうがしゃひょうであのおんなはだれだぁ!!」
「ひいっひゃっひゃっひゃひょうの娘さんだぁっ」
 佐藤花子は白眼を向いて倒れた。 部長と課長は泣きながら互いを慰めあっていた。
 都は興味深そうにその様子を眺めている。「パパ何だか私あんパン食べたくなっちゃったわ。」
「腹を壊すからやめなさい。」
「社長!」
 純朴青年若松太郎は静まりかえるオフィスのなかぴしりと挙手をした。
 神宮司は若松を指差す。 「はい、若松君!」
「入社前に配られた会社概要には確か社長のご年齢が27歳となっておりました。そちらのお嬢様は社長の実子なのですか?まさか小学生の頃の子供ではありますまい。」
 またしても係長以下全員がヒッと息を飲んだ。
 神宮司はあぁ、と呟いた。
「表記ミスだ。私は37歳だ。」
 佐藤花子がぴくりと痙攣し再び気絶した。