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橋ものがたり〔第2話〕~恋心~ ・弐

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「馬鹿だな。俺は、お前の笑顔が見ていられれば、それだけで良いんだよ。他には何も要らねえ。ただ、その笑顔だけを忘れねえで、持ってきてくれ」
「もし、笑顔がなくなっちゃったら?」
「そのときは、俺が笑わせてやる。お前の笑顔は、俺が一生守る。だから、そんなつまらねえ心配なんかするこたアねえ」
「でも、もし―」
 言いかけたお民の唇を、源治の唇が塞ぐ。
 いかほど、そうしていたただろう。
 そっと身を離した源治が、お民に微笑みながら言った。
「余計なことは一切考えるな。これからは、俺がお前の笑顔を守る」
 源治のくれたひと言が、お民の心の底にまで滲みた。
 白い頬を大粒の涙がころがり落ちてゆく。
 雨も降ってはいないのに、心なしか、紫陽花の色が先刻よりわずかに深まったように見えた。
 人の想いも、深まってゆく。
 お民の源治への想いもまた、この花のようにこれから少しずつ色を深め、いつか鮮やかに染め上がるのだろう。
 逞しい手に引き寄せられ、お民は源治の胸に顔を寄せる。
 また、遠くから風鈴の音色が聞こえてきた。
 ―それは、幸せの予兆だった。