【無幻真天楼 第二部・第一回・弐】しっぽの気持ち
地面に広がるシミがだんだんと大きくなる
空の青はいつの間にか灰色の雲に隠れて
風鈴をならす風も強く抱えた洗濯物もバサバサと強く靡いた
「窓閉めて窓ッ!!」
母ハルミの声が家から聞こえる
「降ってきたね」
縁側に洗濯物を下ろした矜羯羅がふと目を向けたのは御神木
「どいてっちゃっ;」
緊那羅が洗濯物を矜羯羅ごと縁側に乗せた
続いてやってきた制多迦も矜羯羅の上に洗濯物を乗せる
「…重いんだけど」
頭の上にまだ少し生乾きのシャツを乗せた矜羯羅が顔をあげるとクロがフンフンと鼻を近づけてきた
家中からガタガタと窓を閉める音が聞こえる
「あんなにいい天気だったのに…;」
濡れた髪をかき上げて緊那羅が言った
空から降り続く雨
心地よいとは遠くなった風
正月町に台風がやってきた
「うっへぇー;」
ガラガラと玄関の戸があいた音と京助の声
びしょ濡れの京助がプルプルと頭を振ると水が飛び散った
「…かえり」
制多迦が手にタオルを持ってやってきてそれを京助に差し出す
「さんきゅ」
タオルを受け取った京助がガシガシ頭を拭いた
玄関の戸には雨と風が強くぶつかりガタガタ揺らす
「あーもーいきなりきやがって台風のやろう;」
「…うすけもびしょびしょだった」
家に上がった京助が部屋ではなく洗面所に向かった
「あ義兄様」
「京助おかえりー」
洗面所兼脱衣場の戸を開けるとそこにいたのはすっぽんぽんの悠助とバスタオルを巻いた慧喜
「……」
無意識に京助の視線が向いたのは慧喜の谷間と太もも
京助が無言で戸を閉めた
「…ょうすけ?」
戸を閉めた京助に制多迦が声をかける
「…うしたの?」
「…いや…;」
京助が足早に歩き出した
首を傾げた制多迦が後を追いかけた
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・弐】しっぽの気持ち 作家名:島原あゆむ