【無幻真天楼 第二部・第一回・弐】しっぽの気持ち
「…っ…」
黄緑の瞳がぎゅっと目をつむる
「くるなっ!!」
藤色の瞳が叫んだ
叫んだ声は強がっていても怯えて震えていた
矜羯羅が右手を前に出すと藤色の瞳もぎゅっと目をつむった
優しい光が二人の体を包むと痣や傷が綺麗に消えていく
驚きながら自分たちの手足を見る二人
矜羯羅が手を下げると傷や痣は跡形もなくなっていた
「…名前は?」
先程の質問を再びした矜羯羅
「…慧光」
黄緑の瞳が小さく答えた
「そう…」
矜羯羅がちらっと藤色の瞳を見る
さっきまで睨みがきいていた瞳には戸惑いの色が見えていた
「僕は矜羯羅」
そう言いながら二人を羽衣で包む
「…俺…は…」
羽衣をぎゅっとにぎった藤色の瞳が口を開いた
「…慧喜…」
「そう…慧喜と慧光」
矜羯羅が二人の名前を繰り返す
「おいで」
立ち上がった矜羯羅が両手を差し出した
「…僕にも君たちみたいな相方がいるんだけどね」
きょとんとした顔で見上げる慧光と慧喜
「紹介するよ…」
ふっと笑った矜羯羅
顔を見合わせた二人が恐る恐る矜羯羅の手に手をのせた
「矜羯羅様」
「下がっていいよ後は僕が」
矜羯羅が付き添いだった男に言うと二人の手を引いて歩き出した
深々と頭をさげた男が遠ざかるのを振り返り見た慧光
握られる力が少し強くなった左を見ると慧喜の藤色の瞳から涙が流れていた
ため息をつき矜羯羅が足を止めると慧喜を片手で抱き上げる
驚いた慧喜が矜羯羅にしがみつくと矜羯羅がそのまま歩き出す
右手を繋ぐ慧光の顔がほころんだ
コツコツと長い廊下を歩く
慧喜のぐすぐす鼻水を啜る音が寝息に変わった
「あ…あのっ」
「…何?」
慧光が矜羯羅を見上げた
「わ…私たち…どうなるナリ…?」
「…どうなりたい?」
矜羯羅が逆に聞き返すと慧光が足を止めた
「私…は…」
うつ向いた慧光の頭を矜羯羅が撫でる
「どうなるか…は僕にもわからない…全ては宝珠が決めること…」
「ほう…じゅ…」
慧光が矜羯羅の頭の布についている宝珠を見た
薄水色の宝珠が緩やかに光る
「私…」
ぐすぐすと慧光が鼻水を啜り出した
ため息をついた矜羯羅が右手で慧光を抱き抱えた
「…重い」
立ち上がった矜羯羅がよたよたしながら歩き出した
「矜羯羅様…」
「…何?」
慧光が恐る恐る矜羯羅に抱きつくと矜羯羅がため息をつく
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・弐】しっぽの気持ち 作家名:島原あゆむ