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心を。
 空っぽの、自分の心を何かに例えるとしたら。それは、一つの部屋に似ていた。広くて、真っ白な部屋。
 「白」が、綺麗だとか清らかなんてものとは、別の意味を持つんなら。
 虚空だとか静寂だとか、そんな意味を持つんなら。
 確かに、僕の心は真っ白だった。
 なにもない。
 物質も。時間も。果てさえも。
 僕の心は一つの部屋で、そこには確かに境界があるはずなのに。僕はまだ、それを見たことがない。まだ、見つけられずにいる。
 なにもない。
 音も。ぬくもりも。人影も。
 家族とか、友人とか、今日知り合った人。誰一人、僕の心の中にはいない。無音の空間にあるものは、ただの虚空で。満たすものなんて、なにもない。
 なにも、ない。
 自分自身すら、存在しない。ただただ広い、白の中。
 そこに、あいつは住んでいた。
 渇いた心の片隅に。ただ、ただ、ひっそりと。
 泥の底からいやらしい目で辺りを窺う、ナマズのように。ただ、ひっそりと。

作品名:からから 作家名:依織