タクシー強盗の恐怖
「金をよこせ!今日の売り上げを全部だ!……聞こえねえのか!」
恐ろしい声で云った強盗犯は、光るナイフの柄で防犯目的の透明なアクリル板を叩き、乗務員のシートを蹴った。恐怖のためにひどく怯えている乗務員は、気が動転して声も出せなくなった。自らの激しい鼓動の音が聞こえる。助手席の小銭入れの箱の下に置いてあったタクシー料金専用の財布から出した紙幣を、蒼い顔の今井は透明なアクリル板と助手席のヘッドレストの隙間から差し入れ、怒った顔の強盗犯に慄えながら渡した。
「これだけ?もっとないのか?」
この場から逃げたいと思いながら今井が渡したのは、数えてはいなかったが恐らく二万円を少し上回る金額だろう。つい先ほど降りた乗客も、クレジットカードでの支払いだった。ほかにもカードでの支払いが一回と、チケットでの支払いが一回あった。だから現金はその程度しかない。プラスチック製の箱の小銭を数えても、数千円でしかない筈だ。
「あとは小銭だけですが……」
今井はかすれた震える声でやっと、そう応えた。
「とりあえず五万近く必要なんだ。なんとかしろ」
「それしかありません」