タクシー強盗の恐怖
タクシー強盗の恐怖
酒に酔っていて眠り込み、なかなか起きない初老の男の乗客が、漸く目覚めて降りた暗い住宅地で、今井はUターンをするべきか否かを迷った。不可能ではないと思ったものの、無理しないで直進することにした。新車に近い無傷の車だからである。
その先は街灯もない、更に暗くて野菜畑か何かだろうか、だだっ広い耕作地の中のようだった。
乗客がタクシーを待つにはおかしな場所だと、乗務員の今井亮太は思った。狭い道の中央に立ち、車のライトの光の中で手を挙げたデニムの上下の、顎に髭をはやした長髪の中年男の様子は、どう見てもまともそうには見えなかった。やむを得ずブレーキペダルを踏み、今井は車を止めた。
男が左後ろのドアの傍へ動いたので、今井は仕方なく運転席のシートの右側のハンドルを操作してドアを開けた。車内灯が点灯し、すぐに乱れた長髪の乗客が車内に乗り込んできた。
乗務員が「ありがとうございます」と云う声と、凶暴な顔をした乗客の怒鳴る声が重なった。