小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ダンデライオンにさよならを。

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 遥先輩が亡くなったのは、去年の晩春。温室のたんぽぽを三人で飛ばした、すぐ後だった。病気だった。
「…たんぽぽみたいな人だったんだ」
 冬樹先輩が、呟いた。
「無邪気で、明るくて、よく笑う。たんぽぽみたいな人だった。だから、別れが来るのは当然だったのかしれない」
 別離。それはたんぽぽの、花言葉だから。
「温室に閉じこもってみても、時間は止められなかった。戻ってはこなかった」
 風は吹かなくても、時間は過ぎていく。
「明日、種を飛ばそう。手伝ってくれる?」



 市村遥さま。山岸巴さま。
 遥かに宛てた手紙を巴ちゃんが受け取っていたことには、気付いていました。君には、ずいぶん迷惑をかけてしまいました。いままでの手紙は、全部燃やしてください。



 風が、吹いている。天井も、窓も、入り口も開け放たれた温室に、ゆっくりと流れ込んでいく。
「あれ?」
 声を上げた理由は、真っ白な綿毛の中に、見慣れない色を見つけたからだった。
「先輩。紅い綿毛があります。なんだろう、これ」
「紅い、綿毛?」
 慌てて駆け寄った先輩が、スプレーで色をつけたような綿毛を摘み取った。
「昔、遥と遊んだことがあったんだ。たんぽぽの綿毛に色をつけて、どこまで飛んでいくのかを見てた」
「そのときの、綿毛かもしれませんね」
 冬樹先輩が、微かに頷いた。
「あたし、先輩のこと、好きでした。だから遥先輩が亡くなったとき、密かにチャンスだって思ったんです」
 ひどい話だけど。自分でも、そう思うけど。
 冬樹先輩は、何も言わずに頷いてくれた。それでよかった。
「ここ、もう閉めようと思うんだ」
 迷いのない言葉だった。温室育ちのたんぽぽは、外の世界でもしっかりと花をつけるから。
「いいんじゃないですか。あたし、荷物まとめてきます」
 強い風が吹いて、足元から一斉に綿毛が飛び立った。背後で、微かに冬樹先輩の声が聞こえた。
「お別れを、言っていなかったんだ」
 もう届かないことはわかっていたのに、手放せずに。
 振り向いた視界に、紅い綿毛が飛び去るのが映った。舞い上がった綿毛は風に乗って、高く高く昇っていく。そうしてもう、戻ることはない。けれど。
「遥。輪廻って、あるみたいなんだ。いつかまた、君と会えそうなんだ。だから」
 今は、お別れを言うよ。