奥手な男
第3章 マキのアパート
マキは三時限目の授業が終わると大急ぎでアパートに戻った。アパートに戻ったマキは、バスタブにお湯を張ると、半分に切った5個分のグレープフルーツを湯の中に放り投げた。
部屋干しの洗濯物をしまい、キッチンの食器を洗い、部屋の片づけを始めた。トイレの掃除を終えると、買い込んだ食材でサラダとマリネとミートローフを作り始めた。冷蔵庫にビールと白ワインを冷やした。
ミートローフが焼きあがる間にバスタブにとっぷりとつかった。風呂から上がったマキは、通販で買ったブラを着けた。そしていつもの3倍の時間をかけて歯を磨いた。髪を乾かしながら時計を見るともう5時半だった。
軽く化粧をしてからテーブルセッティングをしていると携帯が鳴った。タカシから、今駅に着いたとの連絡だった。約束の時間より少し早いタカシからの連絡にマキは少々慌てたが、何とか準備を整えるとドアの外でタカシを待った。
10分後、缶ビールとケーキの箱を持ったタカシが現れた。少し時間がかかったなと思ったのは、駅前のケーキ屋に寄っていたからだとマキは納得した。
「いらっしゃい 迷わなかった?」
「うん 大丈夫 きれいなアパートだね」
二人が部屋に入ったとき時計の針はちょうど6時を指していた。小さなテーブルに並べられた料理を見てタカシは感激した。
「へー すごいね マキちゃん 本当に料理が得意なんだ」
「へへへ まあね」
マキはちょっと得意になって笑った。タカシはいつものあわてんぼうのマキとは違う一面を見た。
「じゃあ まずはビールで乾杯!」
「乾杯! お招きありがとう」
「ようこそいらっしゃいました ゆっくりしてって 明日お休みでしょ」
始めぎこちなかった会話も時間が経つにつれてだんだん滑らかになってきた。マキは冷蔵庫から良く冷えた白ワインを出した。
「俺が開けようか?」
「うん お願い」
タカシにワインボトルを手渡すとき、指と指が少し触れ合った。マキは少しドキッとした。タカシは何もなかったようにコルクを抜いてグラスに注いだ。
マキはタカシがワインを注いでいる間に音楽を掛け始めた。カントリーの歌姫、テイラー・スウィフトだ。
普段あまり飲まないワインのせいで二人は能弁になった。大学の授業のこと、共通の友人のこと、好みの音楽のこと、二人の話題は尽きなかった。ただマキにとっては核心に触れた話は何一つなく時間が過ぎていった。