小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

奥手な男

INDEX|6ページ/6ページ|

前のページ
 

「そうだ ケーキ食べなきゃ!」
「ああ そうだったね でも俺もう腹いっぱい マキちゃん全部食べていいよ」
「そう? じゃお言葉に甘えて」
 マキはケーキをほおばりながら、なるべく長続きしそうな次の話題を考えた。
「そういえばPCの調子が悪いって言ってたよね?」
「あ うん なんか直っちゃったみたい」
 PCの調子は初めから悪くなかった。タカシをアパートに呼ぶ理由がもうひとつくらい欲しかっただけだった。

 終電の時間が気になり始めたころ、タカシはゆっくり立ち上がった。
「そろそろ帰らないと」
「うん(…やっぱり帰っちゃうんだ)」
「すっかりごちそうになっちゃって 今日はありがとう」
「いっぱい食べてくれて嬉しかった(…そんなことどうでもいい)」
 タカシは赤くなった顔をピシピシっと両手でたたくと玄関先に進んだ。マキもそのあとに続いた。
「散らかしっぱなしでごめん」
「ううん(…あたしが言ってもらいたいことはそんなことじゃない)」
「じゃあまた、来週な」

 マキは決心したように口を開いた。
「ねえ タカシくん」
「え なに?」
「あたしってそんなに魅力ない? …そりゃあ あたしは美人じゃないし セクシーでもないし 胸だって小さいよ だから今日は …いつもよりちょっと大きいDカップのブラしてるの 知的センスもないわよ マックス・ウェーバーのことだってよく知らないし
でもタカシくんを好きなことは …誰にも負けないつもりだよ 柑橘系のコロンが好きだって言うから 今日はグレープフルーツのお風呂にも入った えっと …キスされてもいいように歯も入念に磨いたの 最後まで行きそうになったら とりあえずはダメって言おうと思ったけど… だって 尻軽女と思われたくなかったから… それなのに タカシくんったら キスどころか 手も握ってくれないじゃない ここは二人っきりだよ 誰にも邪魔されないんだよ …あたしだって女なんだから ギュってハグしてくれるだけで嬉しいの それなのに……」
そのあとは涙で言葉にならなかった。

「マキ」

 タカシは初めてマキを呼び捨てにした。そしてマキの腕を引き寄せると両手で彼女をギュッと抱きしめた。マキはタカシの胸に顔をうずめて鼻をすすった。タカシは黙っていた。

「なによ あたしばかりに喋らせて」
マキは涙声でそう言うと、タカシの腰に手を回した。
「タカシくんも何かはなしてよ」
「…」
「何でもいいから おもしろいことはなしてよ」
「ううん はなさない」
「どうして?」
「…」
「どうしてはなしてくれないの?」
「はなさない」
「なんで……(涙)」

「マキを離さない これからもずっと」

マキは顔を上げた。初めて二人は至近距離で顔を見合わせた。
タカシはもう一度マキをギュッとした。

(おわり)
作品名:奥手な男 作家名:タマ与太郎