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『晩夏の小夜時雨』 (ばんかのさよしぐれ)

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 外は季節外れの小夜時雨。無色透明のまま、真っ暗な夜空より、さあ-さあ-と降っていた。
 僕たちは押し黙り、みすぼらしく濡れながら、まるで終わりがないかのように歩き続けた。そして疲れ、ぼんやりとした街灯の下で、君は不意に立ち止まった。

「ねえ、これでわかって欲しいの」
 君の声が雨に湿っていた。僕は君に向き合って、「何が?」と訊いた。

「無臭の雨でね、匂いが・・・・・・洗い流せたわ」
 君はきっと見抜いていたのだろう、僕の苦しみと、そして躊躇も。

「そうかもな」
 僕は軽く相槌を打った。すると君は、僕の腕にしっかりと纏わりついてきた。そして、いつの間にか君に、キラリと光る涙が・・・・・・。 街灯の灯りを吸収し、一粒そして一粒と雨に融合し、落下していく。

「私の心は、これで・・・・・・、もう綺麗だよ」
「そうだね」

 そして君は一拍おいて、すべての過去をまるで断ち切るかのように、僕に求めてきた。

「だから、今、ここで・・・・・・キスして」