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切っ先にひっかけて

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「はあ……」
「吸う?」
 耳に四つ以上穴の開いた女が、毎日毎日剣道場に通うのをちゃかすでもなく「よく続くね」「スゴイ」と言ってくれた友達たちは、私が今日に限ってほぼ身ひとつで学校に来たことに、何も触れはしなかった。代わりに、男は尻ポケットからマイルドセブンを取り出して、私に勧めてくれた。不器用で、適当ななぐさめだが、嬉しかった。
「いい。ありがと」
 スポーツをしている私は、煙草だけはやらない。天下の剣豪も大酒呑みなんだから、と訳の分からない理由で飲酒はするけれど。別に、高校生がカッコつけて煙草を吸うことを否定はしない。子供は子供でやるせない時があるし、そういう時は一服したくなるものだ。まさに今、そんな気分だったけれど、そこはスズメの涙程度のスポーツマンシップがかろうじて止めた。
「放課後ヒマならさ、カラオケ行こうよ」
 人懐こく、腕を組んできた小柄な女子は、大きめのピアスを揺らしながら言った。皆、私を励ましてくれている。これまで放課後休日は剣道部優先で付き合いの悪い私にも、仲良くしてくれる友達たちがいるのはありがたいことだった。
 放課後はカラオケで決まり、灰皿としてそこにある空き缶に、男は吸いさしをぐりぐり押し付け、息を大きく吐いた。
 そろそろ教室に戻ろうかという所で、私たちのいる屋上のドアが開いた。一人は空のレジ袋にさっと空き缶をしまい、もう一人は出しっぱなしだった百円ライターをポケットへ滑らせた。すんで一秒のことである。
 だが、それらの行動は全て無意味で、ドアを開けたのは隣のクラスの男子だった。彼は剣道部である。
 なかなかガラの悪い男女数人がたむろう光景に若干怯みつつ、彼は言った。神妙な面持ちで。
「ちょっといいか」
 私は頷いた。
「ナニナニ? 告白?」
「やるねぇ剣道娘!」
「先行ってるから❤ 後でね!」
 周りの友達は勘違いをして、私の肩を叩き、ドアの前に棒立ちしてた彼を押しのけ、はやしたてながら先に教室に戻ってしまった。きっと、彼の話はそんなんじゃない。
作品名:切っ先にひっかけて 作家名:塩出 快