夜が一番短い日
洋子はベッドのシーツを体に巻きつけると、立っている義男のそばに歩いてきた。それから無言で義男が持っていた缶ビールを取り上げると、ごくごくと飲み出し、先ほど義男がしたようにわざとビールを口に含んだまま義男にキスを求めてきた。
義男もまたさっきと同じように口移しに洋子の唇から流れる液体を飲んだ。ゴクリと喉が鳴った。
それから義男は舌を洋子の舌に絡ませ、何ともやるせない気持ちで昔の男を追い払うように執拗なキスを続けた。どこか嫉妬心が混じり、どこか寂しさが混じり、その男が死んだ時は洋子は凄く泣いたんだろうなと思ったら義男の胸の奥が熱くなった。やるせない嫉妬だったのかもしれない。
「ねえ、義男・・・もう一回抱いて・・・」
「ああ、いいぞ。気の済むまで抱いてやる」
それから二人でこの部屋に入ってきた時のように、愛をリフレインした。
重なる体の重さは愛の重さなのか、求める力強さは愛する気持ちの表われなのか。流れる時間の中で出逢い愛し合うという事は偶然の時間の共有なのか。地球の悠久の時間の中で生き物は生まれやがて死に至る。誰でも公平に生と死の運命は決められてるのに、死に対して抗らえる免疫がない。そのかわりという訳じゃないだろうが、幸せと感じる「愛」を手に入れ人々は愛し合う。
義男は涙で濡れた洋子の頬を「馬鹿だなぁ」と言いながら拭い、自信の頬を濡らす涙には気づかないでいた。
洋子の口元からの吐息が、義男の波を受け止めてリズムよく吐き出される。二人の汗が混じり合い密着した肌に擦り込まれる。一つになろうと重ね合わせる肉体はやがて静かな夜に溶けていった。