夜が一番短い日
「すぐ、大人になっちゃうんだね。時間が経つのが早い・・・」
洋子は眠っているかのような義男に聞こえる独り言を言った。
「まだ、知りたいこといっぱいあるのに、もうおばさんになっちゃった・・・」
「まだ、おばさんじゃないよ」義男が洋子の独り言に答えた。
「洋子は全然おばさんじゃないし、歳取ったくらい平気さ。たしかに時間が経つのは早いけど誰だって同じさ。時間はおんなじように流れてるし・・・他にどんなこと知りたいんだ?さっき知りたいこといっぱいあるのにって言ってただろ?」
「うん、聞いてたの・・・?」
洋子は義男の方に体を向けると、柔らかい胸を密着させてきた。
ほとんどもう力がないというような頼るような甘え方で義男の厚い胸に手を回した。
「義男と知り合って、だんだん昔の彼を忘れていく自分が辛かったの。でも、反面、やっと忘れられる事に自分で喜んでみたり、どうして心って複雑なのかな、自分をもっと知りたくなる」
「・・・・お前、頭いいんだなぁ~、自分を知りたいだなんて哲学者だ。てっきり、エッチの体位とかそんなこと知りたいのかと思った。どうしようもないすけべだな俺は・・・」
洋子はそんな義男の少年みたいな言葉に小さく笑い
「ほんとはね・・・さっき、義男に抱かれてた時、昔の彼と比べちゃった。不謹慎だよね」
「ああ、そりゃ、不謹慎だ・・・」
「それでね・・・義男のいい所、発見したの」
「ほぅ~、いい所なんてあったのか?」
「うん、・・・・・やさしい・・・・すごくやさしい」
「それは俺じゃない、仮の姿だ。エッチがしたいだけのやらし~野郎だ」
「また、そんなこと言う、知ってるよ。いや、わかったから」
「優しい男ならごまんといる。俺だけじゃないよ」
「いいの・・・・私のあなたを想う気持ちだから・・・義男・・好きだよ」
洋子はそう言うとさらに義男に密着してきた。
「エッチの後、そんなこと言ってたら重たくて嫌われるぞ。もう、寝なっ!」
「も~、冷たいんだから・・」
「ほら、冷たい男だろ.優しくないんだから、さっ、寝ろっ!」
義男は洋子の頬にキスすると胸の洋子の手をどかし、今度は義男が洋子を包むように片手で抱え込んだ。
「寝るね・・・」
「ああ、おやすみ・・・」
やがて洋子の寝息が聞こえてくると義男は洋子を起こさないようにベッドを這い出た。裸のまま立ち上がり冷蔵庫に向かい、また缶ビールを引き出した。なるべく音が出ないように静かにプルトップを引き海が見える窓際に歩いて行き飲んだ。闇夜の橋の照明はまだ赤々と照らし出していた。湾の奥から外海へ出ていく船が一隻橋の下を潜り抜けていた。 義男はぼんやりその風景を見ながら独り言を言った。
「戦う相手がいねえじゃないか・・・バカヤロー・・・・」
(完)