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「レイコの青春」 31~33

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 「長いおはなしになりそうです。
 どうぞ皆さんは、楽な姿勢でお付き合いください。
 小さな声になりますが、胸の病ですので、そこは大目に見てください。」


 もう一口を水を含んでから、課長と係長に向かって、
あらためて頭をゆっくリと下げます。
陽子が、園長先生の背中に手をまわし、そのまま椅子をひきよせると
園長先生の斜め背後へ、ぴったりと寄り添うように座ります。



 「なでしこが、認可保育園の建設をめざしていることは、
 改めて申し上げるまでもなく、市役所においても
 良くご存じの事と思います。
 この取り組みの達成は、簡単なことではありません。
 この先でも、おそらく予期しない幾多の困難に遭遇すると思います。
 それでも、今ここに居る若い方保育者たちは、それらのことを乗り越えて、
 必ず成し遂げてくれると、私は信じています。
 まずそのことを、関係するお役所のみなさまに、しっかりと
 お伝えをしたいと思います。
 そのうえで、私自身の至らなかった点について
 すべてお話をしたいと思います。
 そうすることが今後、このような事故や事態に陥らないための、
 参考にもなると、自分ながらに考えました」


 幸子が、園長先生の背後へ立ちます。
幸子の指先が園長先生の両肩へ置かれます
応えるように、園長先生の指先が幸子の指に触れました。



 「突然死という病気の存在を、
 綾乃ちゃんの事故の際に、私は初めて知りました。
 原因の一つと言われている、うつぶせ寝の危険性のことも、
 その後に調べた文献などから、実は、初めて理解をしました。
 私は若い保母さんたちに、経験から学ぶことの大切さと、
 常に見識を拡げて行くことの重要性を、
 日ごろから強調をしてまいりました。
 そう言い続けてきた当の本人が、取り返しのつかない
 最悪の、たいへんな事態を引き起こしてしまいました。
 長いキャリアと経歴の中で、いつの間にか、
 新しい事を学ばずに、流れに身を置いている私自身が居たようです。
 保育者としての、重大な怠慢と言えるかもしれません。
 ゼロ歳児や乳幼児たちを襲う、突然死と言う病気の存在すら
 私はまったく知らず、無警戒のままでした。
 あたらしい学説に無知すぎた、私自身の大きな落とし穴です。
 それが私が後悔をするべき、第一の反省点です。」



 ひと息をいれた園長先生を気づかって、
陽子が傍らから、少し休みますかと小声でささやきます。
しかし園長先生は、いつもの笑顔をみんなに見せてから、もう一口、
ゆっくりと、美味しそうに水を含みます。
底に着いた水滴を、膝に置いたハンカチで受け止めてから、
そのままテーブルの上へ、音をたてないように気遣って
コップを静かに戻します。