【無幻真天楼 第二部・第一回】夢風鈴
「大丈夫? 乾闥婆」
烏倶婆迦が乾闥婆に聞く
「大丈夫ですよ」
迦楼羅たちと共に京助の元に行こうとした乾闥婆だったが迦楼羅に止められ縁側から境内の方を見ていた
「…ねぇ乾闥婆」
「なんですか?」
「おいちゃん乾闥婆の笑顔見たい」
きょとんとした乾闥婆
「僕の…笑顔ですか?」
烏倶婆迦が頷く
「おいちゃん乾闥婆の本当の笑顔見たい」
「本当の…?」
「乾闥婆の笑顔…笑顔だけどなんだか足りない」
乾闥婆の羽衣をつかんだ烏倶婆迦
「…僕の本当の笑顔…」
「おいちゃん…乾闥婆が好きだ」
「…ありがとうございます…」
微笑んだ乾闥婆に烏倶婆迦が抱きついた
チリンと風鈴が鳴る
烏倶婆迦の帽子に額を付けた乾闥婆が目を閉じた
「僕は…僕は…笑っていいのでしょうか…こんな僕でも…」
「おいちゃん乾闥婆が本当に笑ってくれるなら嬉しいだから乾闥婆…もういいと思うよ 迦楼羅もきっと」
「迦楼羅…」
乾闥婆が軒下から空を見上げた
「呼んだか」
和室の入り口から入ってきた迦楼羅が声をかけてきた
「おかえり」
「…うむ」
乾闥婆に抱きついたまま言った烏倶婆迦をちらっと見た迦楼羅
「随分と乾闥婆に懐いてるね烏倶婆迦」
「おいちゃん乾闥婆が好きです」
「なっ;」
矜羯羅が言うと烏倶婆迦がきっぱりと言い切ってそれを聞いた迦楼羅が言葉を詰まらせた
「…るら変な顔」
「や…やかましいわたわけッ!!;」
プッと吹き出した制多迦に迦楼羅が怒鳴る
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回】夢風鈴 作家名:島原あゆむ