【無幻真天楼 第二部・第一回】夢風鈴
急に【そいつ】の名前が呼びたくなって庭に降りた
出しっぱなしにしていたサンダルは朝露で濡れている
まだいるわけないと頭でわかっているのに体が足が向かうのは境内
案の定人の気配のない境内には高く聳える御神木
近づくと葉っぱの青臭さが鼻につく
見上げれば朝日を受けた葉がキラキラ光っていた
いい表せない気分
締め付けられるような
悲しいではない
切ないとかじゃない
でも
嬉しいとかそういうものでもない
【夢幻】だったのかもしれない
むしろ【夢幻】だったのか?
あまりにも【現実】に溶け込んでいたから【夢幻】でも【現実】だったのかもしれない
でもそれは所詮【夢幻】
目を開ければ解ける魔法
いつかは終わるから楽しくてそして悲しい
『ああ そうか やっぱり 夢だったからこんな気持ちになってんのか…』
心と頭では望んでいてもそれとは違う【現実】だから
ザワザワと風が御神木の葉を揺らしハラハラと葉が落ちた
葉の隙間から見える薄青色の空
京助の寝癖頭を風が撫でるとその風が葉についた朝露を下へ落とした
ピチョン
朝露の滴が京助の頬に落ち流れる
まるで涙みたいに
「…冷て…」
呟いてもそれを拭おうとはせずに京助がうつ向く
全てが【夢幻】だったなら
全てが【夢幻】だったなら?
全てが【夢幻】だったなら…
「俺は…」
そこで止まった京助の言葉
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回】夢風鈴 作家名:島原あゆむ