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空の子供

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「ならぬ! 人の子は、その魔法を覚えてはならぬ! グイ、止めろ!」
「言われなくとも、判っている。いちいち命令するな。己に命令していいのは、母と父だけだ」
 空の子供って、本当に空に忠誠心が溢れてるわ。グイは、刀を抜いて斬って、シールドから抜け出し、足我さん達の方向へ向かう。
そして、片手で足我さんたちに刀の切っ先をつきつけて、片手でサングラスを少し上へあげる。色のある世界を見たかったのだろう。
 「人間は自然治癒が掟だ。闇の魔法を使って良いのは、MASKと魔物だけだ」
「何故人間は使ってはいけない?! 人間の方が、使うに相応しい! 自然治癒など、動物だけがしていればいい!」
「人間も動物だ。傲るな。……じゃあ、そいつに、使ってみろ。面白いことが、起きるから。逆恨みするなよ。パイ、日野の目を塞いでいろ」
「わ、私、さっき見たから平気…」
「そうではない、気持ちの問題だ。それと、…見たくない物が見えてしまう」
 どういうことだと問う前に、パイロンが防御壁を再び張り直し、その防御壁を真っ黒にしてしまい、何も見せなくしてしまう。
 向こうでは、何が起こっているのかは判らないが、足我さんのお兄さんの詠唱する声が聞こえた。
 そして、次の瞬間に聞こえた物。ぞっとした。
 ――今の音、血が弾ける音だ。
 パイロンがその音に顔を一瞬だけ歪ませて、何時聞いても気味の悪い音だ、そう呟いた。
 私は心臓が今にも破裂しそうなくらい、怖かった。見なくて良かった。顔から血の気が引く。パイロンが横目でちろりと私を見遣る。
 「人の子、このままシールドを張っておくか? それとも……」
「目にするわ。私、強くなるの」
「……強さと、無茶は違うと思うがなぁ…」
 パイロンは苦笑しながらも、シールドの透明度を高めていった。
 そして、段々と…段々と…足我敬の弾けた頭が見えた。
 グロテスクで、少し吐き気がした。血の臭いまでが、こちらに入ってこないのが唯一の救いだ。
 パイロンは扇を口にあて、目を細めて、眺めていた。ただ、ただ、冷静に。
 グイも、冷静に、何かを言っている。
 闇の魔法、回復魔法は、確かに傷を無かったことに出来るが、反動がその分酷くて、MASKに寄生されているのならともかく、MASKに寄生されてないものが使うと、下手したら殺してしまうんだそうな。死期を早める魔法でもあるのだ。元は時間の進めを一部早めて老化させて使う回復魔法だから。
 MASKに寄生されてる者でさえ、寄生が終わった後は、弾けるんだそうだ。
 ――魔法の恐ろしさを、闇を知った。
 私は魔法の闇を見たことがない。だから、シェイは私にこれを見せようとしたがらなかったのだ。
 知ってしまったら、きっと使いたがるから。
 闇の魔法、という名に相応しい魔法だ。
 「闇の魔法と呼ばれる訳が判ったか、坊主」
「……っくそ、くそ、くそ、くそぉ! 俺は、俺はただ、太陽の子の鱗が欲しかっただけなのに…! その血が、生命力が欲しかっただけなのに! あの血があれば、不老不死に…」
「誰に言われた? 坊主」
「天のお告げだ!」
 ……それって、自分から教えたって事? 空が。
 「不死にはなれるが、不老にはなれねぇ。墓で眠れねぇんだよ。空に関わってはならんのが、人の常だ。人は人に幸せがあり、空には空の幸せがある」
「…そんなの詭弁だ。人の幸せと空の幸せが同じじゃないと、何故言い切れる!?」
「…馬鹿な質問をしてくれるもんだ。それは…」
 グイが足我さんのお兄さんの顎を思いっきり蹴って、彼の体が倒れたのを確認すると、刀を足我さん――妹の方――の胸に刺した。
 「己が空の、星の子供だからだ」

*

 「シェイ、聞いてるか?」
 グイが昏倒している足我さんのお兄さんを足蹴にしながら、グイは静かな声で、だけどはっきりと聞きとれる声で、シェイを呼ぶ。
 シェイはぐるると、喉を鳴らして、グイにすり寄る。
 だが、グイは一瞥もしないで、近寄るなと冷たく言い放ち、枷を手にする。
 「これをつけてから、話そう」
「グイ、オレぁ肉体労働が苦手でなぁ…?」
「判ってる。お前のか細い骨だけの手じゃ無理だろうな」
「嗚呼、無理じゃとも。かかか、無駄じゃ、無駄じゃよグイ。オレを煽ろうとするには数十年早い」
「長兄の命令が聞けないか?」
「長女の命令だったら、もっと聞けぬがな。オレはオレが思うままに進む」
「私、手伝います」
「日野、テメェはいい。要らん。危険だ、人間には。人間にはな」
「か弱きオレに何が出来ようか。人間の方が、力があるときがあるもんじゃよ。御前さんは、人を知らんね? 人を知らぬから、そう言えるのじゃ」
「シェイの力を知るものなら、誰だって無理だと言う」
「何故決めつける? 未知の者を、どうして信じられぬ?」
「……――テメェは、本当に空の子供か? 信じられないのは、テメェの発言だ」
 グイが溜息のようなものをつきながらそう言うと、パイロンは少しだけ陰りを帯びた目を見せて、自嘲気味に笑った。何だか、これ以上追求させてはいけないと思い、私は名乗り出た。それで話題が変わるなら、幸いだ。パイロンは、私を闇からすくい上げてくれた人。彼にその闇に溺れて欲しくない。どんな闇かは判らないが。
 「大丈夫です、シェイなら、私を危険な目に遭わせようとはしないと思いますし」
 ね?と首かしげてシェイを見つめると、金と銀の鱗が一回だけ目を塞ぎ、紫の輝きを見せてくれる。その瞳は、本当に澄んでいて綺麗だった。象の目よりも優しげで。
 “夕子、危ない”
「大丈夫よ」
 竜が首を振る。それだけで、少し風が起こり、シールド外をばたつかせる。
 勿論、グイの服はゆれて、髪の毛も大揺れだ。
 私はシェイがくしゃみをしませんように、と、祈りながら、防御壁を飛び出した。
 パイロンの制止する声が聞こえたけれど、無視しちゃった。
 私は、シェイが竜になったことで大きくなった枷を、グイと一緒に持ち上げて、手足につけてあげる。
 その間、こんな会話をしていた。
 「日野、テメェは怖くないのか?」
 何が、とは聞かない。何が怖いのか、明白だから。
 「闇の魔法を見るより、怖くない」
「…まぁ、いいことなんだろうな、闇の魔法に興味を覚えないのは」
「でも、魔法自体には興味あるわ? 魔法使いになりたいもの」
“夕子、なれないって本当?”
「うん、本当。でも、絶対なってみせるわ?」
“良かった、夕子、夕子”
 シェイがおおんと鳴いて、私にすり寄る。私は笑いながら、それを受け止めて、撫でてあげる。
 「シェイ、所でな」
“うん?”
「MASK寄生者、あいつだろ? でも、もう逃げた気配だったぞ」
“……でも、今もMASKが居るのを感じるんだけど”
 そう言ってからシェイは人の姿に戻り――服は着ている、何かほっとした――、足我敬の死体に近づいて、あれ?と首を捻る。
 「この子、寄生していた。今居ない。でも、MASK気配、する」
「…そっちの小僧はどうじゃ、シェイ?」
「男のほう、にも、居ない」
「――まさか、シェイ……シェイに、寄生しちょるのか…?」
「空の子供に寄生するなんて、可能なの?」
「……人間的感情を教えればな。…人の子よ」
作品名:空の子供 作家名:かぎのえ