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雪は穢れて

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 「真雪は、調べたところ、魔法使い。そして既にパーティを組んでいる。魔物との衝突は無いわけがないでしょう? 自分が倒そうとした者を他に倒されると、プライドが拙い方向へ走って、自ら危険な目に遭いたがると思います」
「魔物との接触の場合、を考えて……か」
「魔物に殺されるのも、寿命以外の死ですから」
 王は暫く何かを考え込んでいる。王女は、必死に抹茶が軍へ入らない方法を考えている。
 「僕はこう考えているのです。彼には一切ばれないように行動したいと。だから、魔物も彼らが自ら倒したように見せかけて倒します。その際でも賞金をあげてください。軍からの給料から差し引いても構いません」
「いや、金の問題ではないからな。それは別に良いのだが、抹茶が……。他にも、獣人は居るんじゃないだろうか?」
 王が苦渋を絞り出すと、それにはっとした王女がそうよと喚き、以前抹茶を捕らえてきた騎士にまた捕まえてくるように懇願する。騎士は頷くが、こんなチャンス逃すまい。抹茶は後で、動物を通じて獣人に絶対に捕まるなと念を押しておこうと考えた。
 尤も、獣人にとって、捕まえられるなんて恥じ以外の何者でもないのだから、そう簡単に捕まるわけがない。
 だがこの場を収めるには……自分が、説得するしかないだろう。心の中で抹茶は溜息をついてから、王女を潤んだ目で、悲しげな顔を作って見遣る。それから、何も言わずに顔を伏せ、何かを言いたげにする。これは勿論計算なのだがそれに引っかかった王女はどうしたの、と心配げに問うてくる。
 「……抹茶、人間嫌いです」
「……!」
「抹茶?」
 横で訝しんでる狼。その視線が楽しい。でも、表情には出さず、ひたすら悲壮感を出そうと努める。
 「……人間、抹茶、虐める。此処も、皆、虐めるだけです」
 それに反応した王女はこの謁見の間に集まっている真雪保護軍の兵士一同を睨む。
 そのうちの数人が少し慌てた。
 王女は声を荒げて、虐めて自分から抹茶を奪おうとした兵士達を罰そうとしたとき、抹茶の目から涙がぽろりと零れる。それに驚き、王女は抹茶の方を慌てて見遣る。
 「抹茶?」
「……でも、王女様、優しいです。誰より、優しいです」
「……抹茶!」
 愛しのペットに泣きながら頬笑まれそんなことを言われて、心を動かさない人間が居るだろうか。否、この場には居なかった。……狼を除いては。狼は、この抹茶の演技力に戦慄き、顔の筋肉を引きつらせた。
 「だから、人間好きです。人間、眠る場所、欲しいです」
「……抹茶」
「抹茶、王女様、天国行って欲しいです」
 今すぐ行け、と密かに気持ちを込めてやる。抹茶は内心、大爆笑だ。
 「だから、抹茶、役に立ちたいです」
「抹茶、……嗚呼、抹茶。なんて、なんて可愛いの、お前」
 王女は感極まり、椅子から降りて駆け寄り、抹茶を抱きしめる。
 そこまでなら、そこらの兵士でも出来ただろう。だが、ここからが抹茶の腕の見せ所だ。

 「王女様、名前教えて? 首輪にメダルつけて? そこに……王女様、名前、刻んで?」
「……メダル?」
「真雪保護軍だと世界中に判らせるために、軍兵は皆、同じ模様のついた紋章つきのバッジを与えられるのです。入国許可書にも、免罪符にもなります。僕には、此処に」
 そう説明して、王女に狼は自分の左腕に大きく――総指揮官、総大将だからだろう――つけられてる立派な紋章を見せる。それを見て、王女は嗚呼、と呟いた。
 「……あれ、欲しいです。……そこに王女様、名前、刻まれる。抹茶、王女様といつも一緒、だと思うです。それで、安心するです」
 狼は、心の中で、「このカマトト野郎が! 兎の癖して、猫っかぶりのぶりっ子野郎が!」と笑っていた。それに気づいているのか、抹茶は意味ありげな視線を一瞬狼にやってから、王女にやる。
 「駄目です?」
「いい、良いわ、あげる。紋章、あげるわ。だから、覚えて頂戴? 私の名前は、モネリザールよ」
「モネちゃん、です?」
「貴様ッ、王女様をちゃんづけとは……!」
「馬鹿者、空気が読めぬか、レミオール」
 狼がそう窘めるように言うと、騎士は悔しげな顔をしてから、王女を見る。王女は頬を染めて、いかにも惚れました、といううっとりとした顔つきをしていた。
 これで、城内の立場は益々良くなったというわけだ、と狼は抹茶の力強さに頼もしく思えると同時に、不安が過ぎった。
 もしも、こいつが本性を見せたとき、この国は滅びはしないだろうか、と。
 そして、それと同時に、気づく。
 嗚呼、紋章を貰うということは、軍入りを認めると言うことか。しかもこんな公の場所でそんなこと言われたり言ったりしたら、撤回出来ない。

 ……魔物より、この獣人を切り捨てるべきだと思うが、今は協力せねばなるまい。

 首輪についた金色の紋章を弄りながら、抹茶は大層ご満悦だった。
企みが成功したのが嬉しいのだろう。退屈に王女の元に居るだけの生活から、軍入り出来たのが嬉しいのだろう。
 人に縛られるのは嫌いだが、軍に入るって言うのも中々面白いものだと思った。それに、例え抜け出ても死んだと見せかけて逃げれば、容易く逃げられるだろう。
 ……狼の目さえ、誤魔化せれば。そこが難点だ。狼の勘は、人間にしては鋭く、匂いをかぎ分けるのも人間の癖に出来る。
 狼をどう誤魔化そうか、と考えている頃に、狼がやってきた。
 「どうかします?」
「……今から、街に行って、皆が溶けて欲しくない雪を見に行くんだ。各種バラバラで。お前も着いてこい、情報部の部隊長なんだから、顔を覚えておかなきゃならんだろ」
「判るです」
「めんどくせーって顔に書いてある。もう、僕相手には隠すのは止めたのか?」
 狼が凶悪的な笑みを浮かべれば、此方は愛くるしい笑みを浮かべるだけ。
 抹茶は、にこりと微笑み、「抹茶、ろーくんに服従です」と答えた。
 それを見遣ると狼は王女のようにそれに捕らえられる事無く、ただフンと鼻を鳴らして睨む。
 「言葉だけだろ。無理するな。嘘は嫌いだ」
「……ろーくん、賢いです。だから、嘘つくのです」
(おめー相手で嘘が通せなきゃ、これから先嘘は通せない証になるし、自分のウソツキの腕も見られるだろ?)
 内心で抹茶は毒づき、表面では持ち上げる。それを狼は本能で察知したのか何だか鳥肌が立ってしょうがなかった。
 「……とりあえず、真雪に関してだけは絶対に嘘はつくなよ」
「……了解です、主」
「お前の主は王女様だ、冗談でもやめてくれ」
「……服従の誓い、したです?」
「僕なんかより、王女様にすりゃよかったのに」
「……喜んで、抹茶、離さない、なるです」
「……そうか」
 話を打ち切ると、さて、行くぞと狼は声をかけて、抹茶の背中を励ますようにぽんぽんと叩いた。抹茶は頷き、少し遅れて狼の背を追うように駆けだした。


 街へ繰り出すのに一つ問題がある。抹茶の尻尾はローブやマントで隠せるから良いとして、耳はどうすべきか、と悩む狼。
 「お前、その耳どうにか出来ないのか?」
「人間に化けるです?」
「……今の状態は化けた状態じゃないのか?」
「ろーくん、獣人、獣の部分残す間抜け、することない、です」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ