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雪は穢れて

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「もしかしたら、副将の持っている情報が庵部隊長だけに流れてしまうかも知れないじゃないですか。逆もまたあり得ます。庵部隊長は、失礼ですが、魔法の対策、そして魔法を必要とする為に居る身であります! 彼女だけに情報が流れたり、その彼女の考えに影響されるのは、いかがなものかと! 嗚呼、それは御大将にもあり得ますね?」
 狼はタバコをとりだして、火をつけて、一服する。紫煙をはき出し、野良と抹茶を見てみると嬉しそうな顔をしていた。この状況が楽しいのだろう。
 狼はタバコを片手にしたまま、炎も一瞬で凍らせる程の冷たい視線を彼女になげかける。
 彼女はその視線を向けられることがまともになかったので、びくっとするが、俄然視線は強気なままだ。
 「考えに全く影響されないことって、あり得るのか?」
「自分の考えを持つべきです。自分の考えで行動すべきです」
「じゃあ、お前は小さな頃から、赤ん坊の頃から考えが備わっていて何かの本に影響されたり、誰かの教えを受けて交流を操作出来るようになったわけじゃねぇの? へぇ、全部自分一人? 誰の手も借りず? そりゃ凄いな、何処の超人だ、お前」
「……ッ」
「誰かに影響されるというのは、大事なことだ。誰かの意見を受け入れながら行動するのも、大事なことだ。それを使った担当者だろ、お前。そのお前が、そんなこと言うのか?」
 狼のオブラートに包まない物言いに、彼女は少し涙目になりながら、でも、と主張を変更させることにしたようだ。
 「でも、肩入れすると言うことは、その者の考えを私的に影響するということでしょう!?」
「……でも肩入れしている相手は、幸いなことに、魔法の専門だ。問題あるか?」
「え……ないとか言いませんよね?」
「無いじゃないか。魔法を扱うプロで、更に言うとそのプロの中のプロ。つまりは知識も判断力も兼ね備えている。この作戦を考えてくれたのは皆だが、根本的には庵だと言うじゃないか。実力ある証拠になるぞ。魔法って言うのは、頭の回転が速くないと巧く出来ないものだ。つまりは、この中で誰よりも、僕より、副将より頭の回転が速いということだ。その彼女の意見を受け入れないでどうする? お前、資料に書いてあるのを見たよな? 親元。誰も判らなかった親元を、幽霊だかなんだか分かんないけど、そいつの来訪の一言でそこまでつきとめた。なぁ、お前にそこまでできんのか?」
「大将、そこまでは言い過ぎですよ、流石に彼女、泣きかけています」
 野良がにこりと頬笑んで、立ち上がり、制する。そして泣きかけの彼女に、安心させるような微笑みを浮かばせる。
 狼は、フンと鼻を鳴らして、野良を睨み付けるような目つきで見遣る。
 この視線は、普通の視線だと知っている野良は、ただ苦笑して、狼に視線を投げかける。
 「大将は、依怙贔屓が酷いです。副将を推したとき、何やら彼がならないと降りると言ったそうですね? まるで子供の我が儘じゃないですか」
「だが実力はある」
「大将、全部能力で見ないでくださいよ。人間的な部分も、大将なら部下のそういうところもフォローしましょう? 彼女は、副将の為、軍の為を『思って』、わざわざ勇気ある発言を貴方にしたのですよ?」
「野良部隊長……!」
 彼女は感極まった感じで、わっと泣き出し、それを隣の席の者が、それぞれ慰めている。
 それを冷静に狼は見遣る。くだらない、話だ。人間的なフォローって、ただの恋だか地位だかへの嫉妬に何故フォローしなければならない。
 野良は、此処で信用を得るつもりか、自分には出来ないことで。少し視線を鋭くして野良を見つめる狼。野良は、ふふっと笑って、では、と提案をする。
 「では、このままでは各部隊長が不安なままに作戦を進めることになるので、庵部隊長と副将にはそれぞれお目付役をつけることにしましょう?」
「…………」
 皆はそうだ、それがいいと騒いでいる。庵は諦めモードで溜息をつき、狼を見ると、これを否定するのは無理だと言わんばかりに、僅かに首を振る。千鶴は、ただ困惑して、狼狽えていた。
 野良は、皆に愛想をふりまいていた。
 拙い。
 このままでは、野良の動きの報告を、二人から密かに得ることは出来なくなる。安否の確認は出来るが。
 「あ、大将にもつけたほうがいいですかね? 依怙贔屓しないように。あ、じゃあ僕が……」
「それなら、大丈夫です」
 抹茶がにこりと笑いかけて、挙手した。それに一同は注目する。野良でさえ意外な顔をして、抹茶を振り返る。
 「抹茶、ろーくんと今日から、ずっと一緒です。冒険中、ペットです」
「それもそうだな、ペットだから他に接触を見張れるしな」
「抹茶ちゃんなら、ちゃんと見張ってくれるわ、きっと」
 賛成モードの部隊長達に、野良は少し焦りながらもそれを見せず、それなら、と。
 「今夜はどうするのです? 今夜は別に冒険では……」
「練習です。ペット愛好家。だから、一緒におねむです」
「な!?」
 思わず持っていたタバコをおとして、狼は目を見開いた。
 だが皆は賛成モードで頷き、千鶴と庵に至っては仕方がない、というか他に託せる者が居ないという思いだ。抹茶の狼だけを殺したくない思いを信じる他しかない。この軍がどうなるか、それが心配だが。
 ただ夜這いとかそういうのが無いか心配だが、それは野良と抹茶が互いに戦って邪魔をしあうだろう。
 狼は、抹茶と野良を睨み付ける。二人とも、やってくれたな、と恨みを込めて。
 抹茶はにこやかに、宜しくです、と言い放って、野良は野良でお願いしますねと笑みを向けながら密かな圧力をかけていた。
 (内部分裂、確かに面白かった。見せてくれて、有難う? 面白い機会をくれて有難う?)
 (畜生、夜這いのチャンスを……! あ、でも、兎から守るってことで、居てもいいかも?)

 狼は、思いっきり機嫌の悪い咳払いを、誰もしたことがないような大きさで、してから、もう会議に入って良いか、と聞いた。

 「私的な意見、すみませんでした」
 女部隊長が謝る。それはもうどうでもいい、問題は野良が二人に見張りをつけたことだ。自分が監視させるのを想定していて、だろう。まぁ、賢い選択だ。自分がその二人を実際に頼っているのだから。誰よりも。それならば、監視させるのはその二人になるだろうと思ったのだろう。
 狼は、以後気をつけるように、と言ってから、おとしたタバコを勿体ないなと思い、それから石畳の地面に踏みつけて火を消した。
 「で、餡蜜対策は? 当日、僕はどう動けばいい? あからさまに守るわけにはいかないだろ? 連絡方法は?」
「餡蜜に関しての情報は、野良隊長が」
 そう言われれば野良がこくりと静かに頷いて、一切私情を抜いた表情を作り出す。それを見遣るなり、狼は彼の表情が一ミリたりとも動かないかどうか見張る。
 「餡蜜は、羽衣を自在に操り、その硬度も調整できます。最長二十メートルは伸びるでしょう。大将の報告通り、少女の姿をしています。魔力はダイアモンドの一つ下のクラスで、どちらかというと長距離の攻撃を得意としています。長距離といっても、羽衣、を使うので、その羽衣が見えさえ出来れば回避出来るでしょう」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ