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雪は穢れて

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 「美闇は打倒御大将と餡蜜、を宣言しています、酒場の店主に」
「ああ、最後に一発くらわせて僕が勝ったからだ」
「香苗は真雪の思いを知っていたようで、応援態勢。つまりは異論はないようです」
「……パーティ組むとき、厄介になりそうだな。若い女の子はその手の話が好きだから」
「御大将だって、まだまだ女の子でしょう?」
「千鶴、最初に持っていた僕へのイメージは?」
「……じ、自分は……ッ。自分はッ」
 狼はすたすたと歩き、千鶴は踏みとどまり、ぐすぐすと少し涙ぐむ。
 それを隙と見たのか、また抹茶が抱きつこうとした。
 だが、それに気づいた千鶴が首根っこをとっつかまえて、後ろへ放り飛ばす。
 そして、報告を続け、庵からの報告もする。
 その報告に、片眉を吊り上げて、ふと立ち止まる狼。
 「野良……、アルテミスが此処に来ているのか?」
「アルテミス……というのですか? お知り合いなので? 何やら、陛下直々に命ぜられたそうです」
「…………」
 自分の国の中で一番に腕の良い軍兵を自分が倒せた。そうなると、もう自分の手駒に頼れる者は居ないわけで。となると、自然と狼と対等になれそうな立場の者を頼るだろう。
 自分より下だけど、気を抜くと自分より腕が上になるかもしれない存在。
 それが、野良ことアルテミス=デザ・モンドだった。
 何せ、同じ環境で育った仲間なのだから。家族なのだから。
 そして……自分の、片腕を奪った相手。
 (コヨーテ、僕はもう泣き虫野良じゃないんだよ)
 あの日、笑いながら自分の腕を切り取った彼を思い出す。
 「……千鶴。個人的な頼みがある」
「え、はい、何でしょう?」
「アルテミス、否、野良の動きを、庵に見張らせてくれ。抹茶の見張りは、お前がしてくれ」
「え……? あ、あの、それって、やっぱり宣戦布告してるからですか?」
「……僕と同類。そう言えば、判るか?」
 同じ暗殺者。油断すれば寝首をかかれる相手。
 今、彼に自分が頼りにしている二人の寝首をかかれては大変なことになる。
 未だに理解しにくいという顔をしている千鶴に、狼は吸って短くなっていたタバコを踏みつけて火を消しながら、「お前らの命が危険だ」と爆弾発言をした。
 「お前も時間があれば、庵の安否を確認してくれ。そうだな、二十分置きに。あいつは物理も魔法もいける」
「そ、そんなのが、物理ならまだ判りますが、魔物のほうも兼任するなんて……!」
「暗殺者。そのターゲットの大抵が、“魔物・動物”なんだよ」
「は?」
「勇者程ではないが、魔物殺しを営んでいる。依頼された魔物、動物を確実に殺している。まぁ、人も受け付けているが、主にターゲットは魔物と動物だ。だから、詳しいんだ、魔物には」
「それならば普通に冒険者を営めばいいのに」
「……そうだなぁ、例えば、抹茶みたいに王女様が可愛がっている動物が居たとする。どんなに疎んでも、殺せないだろ? そういうときに彼の出番だ。あとは、勇者が忙しくて手が回らない魔物相手、とかね」
「嗚呼、他には国宝級みたいに貴重な数の生命体とか?」
 千鶴が真剣な顔で尋ねると、狼もまた真剣な顔で頷き、それから抹茶を見遣る。
 「基本的には、あれと同じ警戒態勢だ」
 つまりは、かなり危険な存在だということ。
 それは薄々思っていた。何せ、宣戦布告してくるくらいだし。
 それにしても、体ごともっていくとはどういう意味なのだろうか。
 「宣言した言葉の意味、判りますか?」
 率直に尋ねる千鶴に、狼は苦虫を噛み潰したような顔をして、忌々しそうに答える。
 その顔が、負の部分を思いっきり見せているのに、抹茶は千鶴に妨害されて見れなかった。
 「僕と彼は毎回ターゲットが同じになると、賭けをしていて、何かしら奪うんだ。僕のこの腕は、二回負けた内の一つの代償」
「御大将が、負けた?!」
 耳が痛くなるような大声で驚愕を口にして、ぽかんと口をあける千鶴。
 抹茶も動きが止まっていた。この血生臭い雌以上に、血生臭く出来る雄がいるというのか。少し好奇心が疼いた。
 「あとの三回勝負は全部勝った」
 少し不満そうな顔で狼は言うが、自分でも判っている。その回数では自分も危ないと。
 でも彼は自分の「命」だけは狙うことは、絶対にないのは判っているので、自分の心配はいらないと前もって言っておく。
 珍しく狼から、抹茶に鋭くない普通の視線を向けた。
 「お前も念のため気をつけろ、お前もターゲットになってもおかしくないし、この作戦入りはお前への狙いのカモフラージュも考えられる」
「……心配です?」
「……お前が死んだら、他に誰が獣人や動物へ交渉しに行くんだ?」
 部下としてしか見ていない。その態度に、少し不満な抹茶は狼の腕にしがみつく。腕を組むように。捕まれるなり、狼は厭そうな顔をして、離せよ、と千鶴に頭を曲げさせて自分を殺すのではと思うくらい力を入れて、引きはがさせようとする。
 「ろーくん居る、心配要らない」
「……――僕に守れ、と言うのか。僕は暗殺者、お守りは子羊一匹で精一杯だ」
 深い深い溜息を、これ見よがしについてみせ、それから頭をがしがしとかいて、やけに疲れ切った男の表情をした。女なのに。性に合わない、ストレスが溜まりに溜まっているのだろう。その点を見たら、今日の喧嘩はそのストレスを解消出来る良い方法だったのかもしれない、とその表情を見た千鶴は噴き出す。ぎろりと睨まれそうになったので、すぐに真顔に戻すが。その時の憎らしさと言ったら。
 「御大将、一つ目の代償は判ったのですが、もう一つの負けた代償はその時は何だったのです?」
 千鶴が少し話題を逸らそうとしてみた、が……狼の動きが止まったような気がした。抹茶は訝しんで、顔を覗き込んでみる。
 すると、あの日のような、真っ赤な真っ赤な顔で、屈辱的な表情を浮かべていた。
 「……女としての僕」
 その言葉を聞くなり、抹茶は未だ見ぬ野良という男を脳内で、処刑していた。
 「おめー、やらせたのかよ!!」
 それは、思わず獣人語も出てしまう。
 獣人語で物凄い剣幕で説教されても、千鶴も狼も判らないが、千鶴は溜息をついて「もうちょっと大事にご自身を扱いましょう」と叱っていた。
 例え大事な上司でも、もうすぐ三十路なのだから、それは経験が無ければおかしいし、自分は昔の男に関して口出す権利は無いが、それでも少し口出ししたかったので、千鶴は一言だけで叱った。
 居心地が悪くその話題から離れたかったので、狼は、庵のもう一つの報告の話題を切り出した。
 「真雪は二人の……黒蜜と蜂蜜の庇護下にあるって?」
「え、あ、はい。庵の推測では、もしかしたら育てたのが自分を人間と偽った魔王二人ではないかと。そして、その魔王の脅しで真雪に何かしたら死者を大量に送り込むとか、幽霊の世界へ脅したのかも知れない、とのことです」
「お前はどう思うんだ?」
「残酷との言葉に理由がつきますね。餡蜜が逃げたのも判ります。でもそれならば、普段の冒険で魔物を殺しているのは残酷ではないのかと、問いただしたいです。つまりは親の同族を殺させているってことでしょう? それは道徳的問題ではないのですかね?」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ