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雪は穢れて

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「その作戦は、無茶しすぎです。抹茶を信用しすぎています。抹茶が向こうへ裏切らない保障がありますか!?」
「……ないな、全く」
「裏切った瞬間、御大将だけで対処出来ますか?!」
「……無理だな」
 それは先日思い知った。首を絞められ、死ぬかと思った。それは普通の人なら、油断していたからだ、と言い訳をするのだが、狼は自分の力量不足だと既に思っている。
 自分の力量を補うには、軍全員でリンチするしかないのだ。それも一人の時に。
 真雪を保護しつつ、尚かつ餡蜜へも注意を引きつつ、リンチする方法……。
 狼は考え込み、天井を見上げた。
 「……自分を過信してるパーティ……その過信を利用出来ねぇかなぁ」
「……――失礼ですが、今何と?」
「……あいつらは」
 そういって、天井から千鶴へ向き直る。まだ、考え途中なのであまり口にしたくない提案だが、興味を持たれては仕方がない。千鶴も真剣に此方を見ている。
 「あいつらは、自分を過信している。その過信を上乗せして、餡蜜を討伐……させることは出来ないだろうか」
「……――」
「それなら、真雪を守りつつ密かに餡蜜を共にぼこぼこに出来る。そして彼らは自分の力で倒したと思うだろう。抹茶も居るから、何かしら行動を制限出来るだろうし」
「……策は?」
「……考え途中だ。ただの戯れ言のようなものさ」
「……いえ、戯れ言にしては、中々良い案だと思います。流石、我らが御大将!」
 犬のような目で、きらきらと此方を尊敬の眼差しで見られている。
 そんな目を向けられても、考え途中の提案で、そんな目をされても、困るのだが。
 未完成の作品を褒められている感じで、どことなく厭だ。
 狼は顔を顰めて、まだ考え途中なんだぞ? と、首を傾げた。
 すると、千鶴は、噴き出して、それから立ち上がる。他の者へ通達し、相談すべく。
 「何のための自分たちですか。御大将一人の作戦ではないのですよ。あとは自分たちで何とか策を練ってみます」
「…………」
 少し、その言葉に感動したと言ったら、この男は驚くだろうか。
 自分が一人ではないと言われるのは初めてで。そして、一緒に作戦を考える人物達が出来るのも初めてで。考え途中の物を形にしてくれようとしてくれる者が居るなんて初めてで。
 心の奥が、痒い。
 「……御大将?」
「う……」
「顔が赤…」
「うわぁあああああああ!」
 狼は真っ赤な顔を片手で隠し、立ち上がり、照れくさいのか、物凄い勢いで部屋を出て行った。
 ぽつんと残された千鶴は、どうしたのだろうか、と首を傾げたという。そしてそれを庵に相談して、庵は笑ったという。

 駆け抜けて、庭先にまで来た。何処から此処まで辿り着いたかなんて覚えていない。
 ただ、通り過ぎる度に会う人たちが自分を不審な目で見ていて。
 其れもそのはず、あの狼が耳まで真っ赤にして、そして叫びながら走っていたからだ。
 庭先にまで来ると、滅多にしない息切れをして、動悸を静まらせようとした。
 どうしてだ。
 どうしてなのだ。
 何でこんなに嬉しいのだ。

 「どうかしたです?」
 普段ならいきなりの後ろからの抹茶の呼び声も、今の彼女にはとんでもない凶器で、思わずきゃぁああと叫んでから振り向き、後ろへ下がった。
 それを一瞬きょとんとして抹茶は見たが、次の瞬間頬笑んでいた。
 あの狼が、真っ赤になり、そして普通の女のような――実際女性だが――叫び声をあげたのだ。
 面白い。そう抹茶が考えるのは、自然なこと。
 「ろーくん、かぁいい」
「か、かかか可愛い!? 僕はッ、僕は可愛くなんかねぇ!」
「ろーくん、可愛いです」
「僕が可愛かったら、世のむさい男ども全員愛くるしいわ!」
 何せ男顔! と、むきになって否定する彼女を、げらげらと笑うと、彼女は益々顔を赤くして、笑うなと必死に止めさせようとする。その姿が余計笑いを注ぐのに。可愛く見えるのに。
 誰にも見せたくない顔だなぁ、態度だなぁとぼんやりと抹茶は思った。
 「ろーくん、本当は女らしいです?」
「女らしかったら、スカートの下にズボンなんか履かねぇよ!」
 それは確かに。この時代、この世界でスカートの下にズボン、というのは異質だった。
 でも、ズボンを履くのは動きやすくするためで、スカートを履くのは女だと判らせるためだと知っている抹茶は、にやにやと笑って何も言わない。
 それが返って腹立たしい。
 「何処か行け!」
「厭です。他の人、此処通ったとき、ろーくん隠せないです」
「何故隠したいんだ?」
「何故隠したいです?」
「僕が聞いている!」
 真っ赤なまま怒鳴る相手に、何処まで鈍感なのだか、と抹茶は苦笑する。
 本当に隠したい。
 この真っ赤になって狼狽える姿は、貴重すぎて狼を知る人物を見たら、不気味、か、可愛いかの反応に分かれるだろう。
 特に見せたくない人物が、一人居る。
 真雪。
 あの子供なら、かっこいいと思っていた狼のこんな姿を見たら、もう胸を弾ませるだろう。ただでさえ、怪しい節がある。
 「……ろーくん、死なないです?」
 そうしたら、死んだら、真雪のことなんて考えさせなくて済むのに。いっそ餡蜜に頼もうか。
 でも、そしたら自分とは会えなくなり、更に言うと真雪が自分の能力に気づき、狼を自分の所にだけ会いに来させることが可能だ。
 ……それだけは、絶対厭だ。
 「やっぱり、死ぬ、厭です」
「お前はさっきから、何なんだよ。死ねとか、死ぬなとか……!」
 嗚呼、と溜息をついて、狼は冷静さを取り戻そうとした。
 そこで抹茶に悪戯心が疼いた。
 今の彼女になら、キスしたらその意味は判るのではないだろうか。
 あの時は服従の意味で、戯れでキスしたが、今は別の意味でキスがしたい。理由は、ただ多分、オモチャが欲しいのだろう。このオモチャが。
 「ろーくん、目閉じて?」
「誰がお前相手に閉じるか。殺してくるだろ」
 きっぱりと自然に言い放ち、しかもそれが密かに自分を敵と見ている宣言だという事に気づくと、少しだけイラっとした抹茶は、強制的に実行することにした。
 実行したら、親の敵のように睨みつけるところは前と同じ。冷静に自分を押しのけるのも、同じ。違うのは、彼女の言葉と、やはり真っ赤な顔。
 「ばばばばばば」
 どもりすぎだ、と内心大爆笑の抹茶は、彼女へ不敵な笑みを向ける。
 「馬鹿者ッ!! エロ兎めが!」
 嗚呼、そんなすぐに口を強く服で拭わなくてもいいのに。
 益々、そんな顔をされると、虐めたくなる。嗜虐心を刺激される。
 だが、それは出来ないと言うことに気づいた。足音で判る。王女が近づいてきているのだ。
 (嗚呼、面倒くせぇー)
 舌打ちしかけて、でも、それは途中で思いとどまって、自分は健気なフリをして、王女の元へ駆けていく。
 「モネちゃぁん」
 そういって、王女へと抱きつく。
 王女は自分に抱きつかれるなり、きゃあと笑い、嬉しそうな笑みを見せる。
 真っ赤になる姿。
 それを見ても、狼への思いのように盛らないのは、何故だろうか。はて、と自分の中で抹茶は疑問を抱きつつ、無邪気に笑いかける。
 「モネちゃん、久しぶりです」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ