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雪は穢れて

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 ……暫く黙り、睨み合う二人。ちなみに千鶴も睨んでいるが、会話内容はさっぱり判らない。異国の言葉を聞いているような感覚だった。
 「貴方は何が目的なの? 王女様を手玉に取ったり、あの方に付きまとったり。千鶴から、聞いたわよ。この件が始まる前から、あの方に時折じゃれていたんですって?」
「……目的、何だと思う? 教えないけど」
「……――あの方の失敗、かしら?」
「んー。まぁ、あの雌、手に入れる方法は、それもありだなァ」
「手に入れる!?」
 思わず人語で反応した庵。それを聞き、千鶴は目を見開き庵を見遣ってから、抹茶を睨む。
 「王女様を手に入れるのか、それとも国を?」
 この男、そんなに信頼をよせる人物に値するのだろうか、と抹茶は呆れた。
 庵の方は、なんとなく判る。人間にしては、利口の方だ。
 「……あの方は、そんな簡単に落ちないわ。それとも、この間みたいに魅了技を使うの?」
「魅了技はさぁ、簡単に手にはいるけど、それじゃ、面白くないんだよなァ。あの雌をオレぁどん底に堕として屈服させたいんだ。考えてみろよ、楽しくね? あの男勝りが、自分に服従。考えるだけで、盛れるよ」
「さ、さ……!!」
 またしても爆弾発言に、庵は顔を真っ赤にして、口をぱくぱくとする。
 抹茶はそろそろ飽きてきた。これだったら、またあの雌の部屋に侵入して、殺伐とした空気を楽しみたい。
 「ヤりたいだけなら、そこらの野ウサギで我慢おし! 野蛮人!」
 獣人語だからこそ言えた罵声だろう。隣に、千鶴が居るから、人語では到底言えないだろう。だが、今後のために、抹茶が何て言ったのかはきっと教えるのだろう。今後、あの雌を守るために。忠実な部下だ、確かに。勘は狂ってない、と抹茶は脳内メモした。
 「貴方は獣人で、彼女は人間! そこをちゃんと理解しなさい!」
「だからどうしたのさ。人間になら、化けられるよ、ちゃんと」
「根本的に、人間と動物は違うわ!」
「……そっちこそさ、何が目的なの? わざわざ、そんなこと言いに来たの?」
 本気で飽きてきた。これなら、王女を相手に愛想をふりまいていたほうが、まだ楽だ。
 まぁ、本性を見せられる相手が出来たって言うのは、少しは楽しいが。
 「……彼女を休ませたい、それだけよ。疲れ切って、貴方の相手も適当になるのは、貴方だって厭なんじゃないかしら?」
 その意見には、嗚呼、確かに、と抹茶は頷いた、否、頷けた。
 全力で相手してくれるからこそ意味があって、適当な相手のされ方は、厭だ。
 でも、一緒に寝たかったなー、とか軽く考えていると、庵が高級そうな純銀の錫杖で此方を威嚇する。
 「あの方を私たちは、眠らせる。私たちは、あの方の支えになると決めたのよ」
 人語ではっきりと言ってやった。

 庵は内心怒り盛っていた。自分の尊敬出来る上司。強くて、威勢も良くて、落ち着いていて、それでいて冷静な判断もくだせる。少し人間的に何かが欠けているけれど、それを差し引いても自分にとっては大切な存在だ。
 自分を、ちゃんと評価してくれた。
 自分を、額の石の魔力だけで判断しなかった。三人来た魔法使いの中で、女性という不利な点を、寧ろ良い方向で捉え、こんな地位をくれた。
 例え暗殺者だろうと、人間的にも、上司としても、彼女のことは大好きだ。
 そして、それは千鶴も同じだと、知った。王女のことを話すと少しむかつくが、千鶴が彼女のことを話すときだけは、同感でき、そして親しくなれた。
 千鶴は、ちょっと女性に弱いのが難点。だが最初は狼をあまり女性としては見ていなかった。それでも、最終的に彼女を守りたい、役に立ちたいという気持ちは途中から同じなのだ。それを知っただけでも、嬉しかった。
 赤の他人の自分を、実力で見抜き、人柄を信じてくれた。口にはしないものこそ。
 そして、千鶴と自分の揃った意見なら聞き入れるとも言った。
 自分の他に、千鶴をも評価してくれ、セットで考えてくれてるのも嬉しかった。
 とても、とても大事なのだ。
 自分にとっても、この軍にとっても、必要不可欠だと思っている。
 それなのに、その彼女を脅かす存在、それは真雪ではなく、魔王が恐れるというこの抹茶。
 この軍に入りこんだだけでも許せないのに、彼女が唯一安らぎ、眠れる時間でさえ邪魔しようとする。
 彼女の部屋に入り込んだのを見たときは即座に入り込んで魔法で殺そうかと思ったが、それは千鶴に相談してからにしようと思った。
 千鶴は、一人だけでは敵わないかもしれないが、二人なら何とか威圧出来るかも知れない、警告出来るかも知れないと言ってくれた。そして王女を怒らせると大変だと余計な忠告もくれたが。
 だから、こうして、手出しが出来ないが警告しているのだ。
 「……あっは」
 その警告を、抹茶は、王女様専用の微笑みを向けて、笑った。
 自分にとっては、それは、その警告は意味がないと言っているのだろう。魅了技で操れるから。そんなこと判っている。判っていても、警告せずにはいられなかった。
 「まぁ、相手にされなくなるのは厭だから、眠る時間だけは邪魔しねーでやるよ。……おめーらも眠れよ、寝不足で倒れたらチクるから」
 獣人語でそう言うと、抹茶は手をひらひらと振ってさっさか王女の部屋へ駆けていく。
 その方向に気づいた千鶴が、貴様ぁああと、追いかけて怒鳴ったが、庵はただその背を睨み付ける。
 (……あの方を傷つける者は、私が許さない。抹茶、貴方の目的が、別なのは判っているのよ。真雪くんを殺して、あの方を失脚させることでしょう?)
 それは、当たっていないようで、当たっていたりもしていた。
 (真雪くんも、あの方も、貴方には与えないわ)

*

 「次の冒険先が判りました」という明朝の会議の報告を受けて、総大将は頭を抱えた。
 「あのパーティは自分の力を過信している!」
 狼は深い深い溜息をついた。
 皆も溜息をつきたかった。何せ、次の冒険先は、餡蜜の居る縄張りと目と鼻の先なのだ。
 あわよくば、他の魔物を狩りまくって賞金を手に入れようと考えているのだろう。
 「表向きの目的は、その付近にいる中堅クラスの魔物でしょうね」
「……護衛が大変だな。真雪が餡蜜に会っても、餡蜜は逃げるだろう。……だがなぁ、僕らの存在に気づき、僕らが誰を目的に動いているかばれる。向こうにとっても、真雪が特別な存在ならば」
「……ばれるのを覚悟で行くしかありませんよ、御大将」
 副将となったと皆へ報告したら、認められ、皆からその地位を大切にするように言われ、頷いた千鶴は、その足で、上司と二人だけで話し合いを。
 「……僕と抹茶を単独行動で餡蜜討伐しにいって、千鶴達でその間に真雪達を護衛するか……」
 悩んでいる彼女に、声を荒げて、千鶴は反対をした。
 抹茶は危険だと、既に脳にインプットされているし、餡蜜相手でさえ大変だ。
 「抹茶は危険すぎます」
「危険だが、恐れられている。真雪も恐れられている。真雪が恐れられているのなら、お前らに向かおうとはしまい。真雪が居るのなら。そして、単独の方には抹茶が居るから、向こうは抹茶を恐れている、抹茶の方に注意が行く。自然、戦い合うことになるわけだ」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ