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雪は穢れて

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 それを一人だけ喜々として見遣っていた人物が居た。抹茶だ。抹茶は、笑いを抑えるのに必死だった。
 滑稽だ。酷く滑稽だ。先ほどまでは皆でこの雌の血生臭さに気づかず、蹴落とそうと必死に罵っていたのに、今では血生臭さに気づくと怯えて命令に従う。
 劇は、やはり楽しいものであるべきだ、と抹茶は内心毒づいた。
 「ぶ、物理担当者は後で検討しますッ」
「そうか、それなら良い。では、皆、抹茶の集めた情報と庵が探ったパーティメンバーを見てくれ」
 何事も無かったかのように狼は「統率者」の証である誕生日席に一人座り、皆へ指示する。皆はすぐに情報を纏めた紙を捲り、その一ページ目の似顔絵を見つける。
 「それが、真雪だ。本名、スノードロップ・ベリテリア。年は……」
「十八」
 抹茶がすかさず年齢を述べる。それに頷き、狼は言葉を続ける。
 「服装は、短めの黒いローブに包帯というのが大抵だ。耳には大きな魔力の塊、宝玉つきのアクセサリー。杖は老木の安い杖。魔力の石はルビー。外見は、向日葵色の髪の毛に、赤い目。一見すると、少しか弱いけど元気のある少年といった感じだ。……話した感じだと、礼儀正しそうで、少し純情な所があるようだ。今更だが、僕の顔を覚えているので、僕は表沙汰に動けないので、皆頑張れ」
「魔法の種類は? 魔法使いですよね?」
「ええと……庵、頼む」
 魔法については、詳しくない自分より専門家の方が良いだろう。視線を庵に投げやると、庵は狼に微笑んでから、立ち上がる。
 「精霊魔法。皆様が知っている、一般的な魔法です。精霊という空気中に、風に、木に、とにかく自然に住む存在の力を借りて、其処には有り得ない物を作るのです」
「例えば?」
「炎。こんな、感じですわ」
 そう言って、短い詠唱を口にすると、庵の指先に小さく揺らめく炎が宿る。青い。青い炎は魔力が強い証と聞くが、それは庵曰く嘘だと。ただの相性らしい。
 「続けて宜しくて?」
「どうぞ」
 許可が下りると、庵は炎を艶めかしい吐息で消して、資料を読み上げる。
 「その精霊魔法の炎、水、風、と、この基本の三つしか使えないようです。それも初級。何故魔法使いの試験に合格出来たか不思議なほど、魔力はありません。だけど、獣人語を話せます。ただ……」
「ただ?」
「魔法呪文を唱えると失敗しても、……冒険者の内の誰かが猛烈に強くなるのです」
「ドーピングの魔法じゃないのか?」
「……まだそれを使えるレベルではありません。予測ですが、幽霊が乗り移っておりますわ。そこは、霊能者に見て貰わないと判りません。私の霊力では、見えないので」
「幽霊と精霊って、どう違うんだ? 自分には判らん」
 千鶴がそう言って眉を八の字にして、資料を眺め遣る。狼も同じなので、頷き、説明を促す。
 庵は、何か判りやすい例は無いかと模索しながら、説明する。
 「精霊は、一つの種族。様々な種類がありますが、そこは人間のようなものと考えて宜しいでしょう。それに対し幽霊は、かつて生きたことがあった居るのか居ないのか判らない存在とされておりますわ。……まぁ、真雪くんを見ている限り、居るとしか思えなくなってくるのですがね。力的には精霊の方が、……現す力は強いでしょう」
「曖昧な存在か、はっきりとした存在か、の違い、かな?」
「ええ、そんな感じです、狼様」
 御拝聴有難う御座います、と義務的にそう口に連ねた後、彼女は席にゆっくりと着き、それから狼に視線を交わして、気になることが、と口にした。
 狼は、視線だけで何だと問うて、首を傾げる。
 「……何故、魔物は真雪くんを恐れているのでしょう」
「……嗚呼。僕の報告か」
 自分が助かった理由、最大の理由をそこで思い出し、脳内を素早く動かす狼。
 「……一つは、魔物も僕ら同様脅されている」
「まさか? 相手は魔物ですよ、魔物に死後が?」
 せせら笑う一同に、狼は不思議そうな視線を。その視線でまたしても皆は何か言いたそうにするのだが、言葉を失う。有り得ない、魔物に死後があるなんて。
 それでは、まるで自分たち人間と同じではないか。
 そんなことあってはいけない。
 「有り得ない話ではない、と思う。人間だって、草木だって、生き物だ。魔物も一つの生き物だ。生きていない、とは言い切れないだろう? 例え、人間を殺してくる生き物とはいえ、殺すという知能があって動いて居るんだ」
「……ッ」
「皆、何事も柔軟に考えていこう。これは有り得ない、これは不可能だ、そんなことを考えていては、出来る物も出来なくなる。そこの兎が、有り得ない筈の証拠だろ? 誰が想像出来ただろうか、魔王が抹茶を恐れているなんて、真雪を恐れているなんて」
 たとえ話にまさか自分が出てくるとは思わなかった抹茶は、突如注目されてきょとんとし、耳をぷるぷると動かした。
 皆はこの様子を見て、未だに信じられなかった。この兎がそのような恐ろしい人物だなんて。
 もう彼を虐めてくるものは居ないだろう。
 「それで、次にパーティメンバーを見よう」
「真雪の情報は、たったこれだけ?」
「実際に動いているのをまだ見ていない。この街に居るだけで、実際に冒険をしたのを見たことがない。事前の情報は、ハッキリ言って、彼らには注目してなかったから、情報はこれだけ掴めただけでも良い方だ。嗚呼、一つ言い忘れていた。真雪は親が居ない。誰が親か、捜せ。産み落とした親も、育て親もだ」
「了解」
 ぱらり、とそれぞれ次の資料に手を通す音が伝わる。その音が絶えるまで狼は待ち、皆が捲り終わったのだと確認すると、パーティメンバー一人ずつを紹介する。
 「一人目。美闇。本名は他のメンバーは調べる必要は無いと思ったので、しなかった。こいつは、剣士で前衛を担当している。真雪が一番心許している、と見ている今のところ。外見は黒髪、黒目、そう東洋人だ。だが、どうにも集中力が足りないのか、ラストとなると力を発揮できないところがあるようだ」
「性格は?」
「粗忽。乱暴。僕のことを男と言った」
 最後の一言は冗談のつもりだったのだが、皆は笑わなかった。
 そんなこと気にしてもしょうがないので、次のメンバーを紹介する。
 「二人目、香苗(かなえ)。本名は思いがけず聞けたので、ついでに言っておく。アワーミリー・グロノール。こいつは、弓士で、後衛を担当。だが盗賊のスキルも持っていて、罠解きが得意なようだ。まぁ、そうはいっても、中級クラスのようだが。唯一の女のメンバーだ。外見は、金髪、青い目。出身は隣国。腕前は、……まぁ、盗賊も兼ねてる部分があるからか、あまり当たらない。確率十分の一。でも、逆に言うと、僕らがそこへ継ぎ足しやすくなる」
「と、いうと?」
「物理担当者に任せたいのだが、遠くから弓士を設置して、全く同じ的へ当てるのだ」
「……そんなの、すぐにばれるのでは?」
「大丈夫、馬鹿だから」
「え?」
「性格、単純、噂好き、すぐに調子に乗る。つまり、自分の弓がさされば、舞い上がる。そして、十分の一の確率だと判っているから弓を何本も射抜き続ける」
「……同じ矢にすれば、ばれないと」
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ