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白翁物語 その4(完結)

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「一緒に国旗、返しに行ってもらえる、かな?」
「うん、いいよ。なんなら」
返しに行ってこようかと言いかけてやめた。
その子が本来送辞を読むべき立場だった子だ。
「国旗は私が持つからさ、一緒に話をしながら行こう」
そう美希が言うとほっとした顔を通り越して思いきり嬉しそうな顔をした。
美希はその子が几帳面に畳んだ国旗を両手で目線くらいの位置に捧持すると今度は階段を使って静かに降りた。
「金田さん、私の真横を歩いてくれる?」
「真横?」
「うん、曲がるときもさ、運動会のマスゲームでやったように扇型に」
「わかった」
そうやって国旗を持って並んで歩いているとまだ方付けをしている生徒たちが立ち止まって道を譲り、体育館からは難なく出られた。
「あの」
「ん?」
「平山さん」

「何?改まって、私の事は美希って呼び捨てでいいよ」
「ううん、平山さん、今までごめんね」
「何?いきなり。私は金田さんから何も悪いことなんてされてないよ」
「違うの、今まで誤解してたの、ごめんね」
「誤解って・・・ああ、私についてまわっている噂?」
「うん」
「気にしなくていいって、私が金田さんだったらやっぱりその噂信じてると思うよ。あの美希とか言う女は誰とでも寝るし生徒会長までたぶらかすし、先生方に取り入って学校はさぼるし、成績が悪いくせに代表になるし、あ、これは本当だな」
「平山さんって、自分の陰口を全部知っているのね」
「知らないと思ってた?」
「うん、それで私もそう思って見てたの。でも、私のメガネに色がついてたのね、ごめんなさい」
「そう何度も謝られたら、返す言葉がないから、もうやめてよ」
「うん、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど」

「何でも言ってくれよ。わざわざ二人きりになって話したいことがあったんだろう?」
「うん、実は納得いかなくて国旗を飾るために昨日校長室に入ったときに聞いたの。そしたらね、校長先生が墨で書かれた送辞の原稿を見せてくれて、これをここで 暗記していきなさい。もし、送辞を言う子がその通り言ったなら、文句を言いに来なさい。君が送辞を読むべきだったと謝罪するからといわれたの」
「金田さんは暗記したんだね」
「うん、一言一句ここで言えるよ。代々の主席が送別の辞として言った言葉はね」
「そっか、やっぱり金田さんが言うべきだったろう?」
「いじわるね。私は誰かが書いてくれた文章は言えるけど、平山さんのように全員に自分の言葉で語りかけるなんて出来ないわ。平山さんも米倉先輩も、自分の言葉で言ったじゃない」
「それを見破れたのは金田さんだけだよ。その通り、あれは健一と私が仕組んだ、芝居ってところかな」

「やっぱり」
「で、どうしたい? 恨み言をいって気を晴らしたい? それならそれでもいいけど」
「ううん、実はね、試合の事も聞いたの。だから平山さんに喧嘩をふっかけようなんて思わないわ」
「わかった。じゃあ、これから私の事は美希と呼んでくれ。呼び捨てでね」
「え?」
「金田さんのことも杏子と呼ぶよ」
「いいけど?」
「じゃ、決まりだ。いい友達になろう」
「う、うん」
「さっそくだけど、杏子、ドア開けてくれ。もう校長室の前だよ」
「あ」
杏子はあわてて校長室のドアを開けた。
ソファーで来客と話し込んでいた校長は立ち上がり、まっすぐ美希の前に歩いてきて国旗に一礼した。
美希は一歩前に出て国旗を右に半回転させて差し出された校長の両手に手渡した。
その先は美希の知ったところではない。杏子の腕を掴むと早々に体育館の方にとって返した。
「美希、そう引っ張らないで」
「あ、ごめん、ちょっとあそこには居づらい事情があるんで」
美希が止まると風花が杏子の腕を掴んだ美希の手の上に舞い落ちた。
「あ、わるい。美由紀に注意されてたのに」
美希はあわてて手を離した。
「いいよ。私だって生徒会の役員でなければ近付きたくないもの」


「美希〜」
右斜め30度くらいの方向から呼ぶ、というより叫ぶ声がする。美由紀の声だ。
「杏子、今日何か予定ある?」
「ううん、ないけど?」
「よかった、ちょっと付きあって」
「いいけど、どこへ?」
「気さくに話せる場所がある」
美希は杏子を連れて美由紀が騒いでいる場所に来た。
「そんなでかい声出さなくたって聞こえるよ。美由紀の声はソプラノなんだから」
「あ、金田さん引っ張ってきちゃったの?」

「なんだ? 杏子に聞かれてはまずい話か?」
「ちがうって、水と油が一緒に来たから驚いただけ」
「どういう喩(たと)えだ、それは」

「これからいくとこある?」
「あるよ、美由紀も一緒に来な」
「その前に伝言があるんだけど」
「聞かなくても分かってるよ。体育館を出るときに目配せをしていったからね。それよりボタンの回収終わったか?」
「うーん、もらったことはもらったけど、みんな袖口のボタン、どういうことかなぁ?」
「あはは、袖にされたか」
「えー、そういうこと?」
「卒業式が終わってから群がろうとしたって、ないものはないさ」
「ちぇっ、私が狙っていた先輩はみんな袖のしかくれなかった。美希はいいな、本命がいて」
「人を馬のように言わないでくれ。美由紀こそ同級生や下級生からもてもてじゃない」
「年上好みなんだも」
「あの」
「あ、ごめん杏子、こんな場所で馬鹿話してる場合じゃなかった。早く白翁の所へいこう」
美希は先頭に立って歩き出した。
自然、美由紀と杏子が並んで追いかける形になった
「一体どうなってるの?」
「うーん、美希って頭切れるからね、伝言の必要なかった」
「伝言?」
「終わったら山崎家へ集合っていう」
「山崎家?」
「うん、さっき美希が白翁って言ってたでしょ、その人の事」
「???」
「とにかく行けば分かるって、それより何で金田さんが巻き込まれてるの?」
杏子がはにかんだため、美由紀はとりあえず聞いてみる。
「美希の友達になった?」
杏子は頷いた。
「そっかぁ、じゃあ、私とも、米倉さんとも、山崎のおじいちゃんとも友達だよ。よろしくね」
「う、うん」
美由紀は飛び切りの笑顔で杏子を見た。下級生が悩殺されるとさえ言われている笑顔だ
みるみる杏子の顔が赤くなった。
「ありゃ」
気がつくともう風花は舞うのをやめ、穏やかな日差しがあたりをつつんでいた。


3人が山崎家に入ったとき、健一と白翁はちょうど向かい合って談笑していた。
「コーヒー入れてくるから美希は米倉先輩の方へ」
「サンキュ」
杏子は何となく美由紀と一緒に台所に入った。
狭いけど、何て整った台所だろう。杏子はそう思った。
美由紀がインスタントコーヒーの瓶とスプーンを出したので、杏子は目の前の食器棚からボーンチャイナのコーヒーカップを腰くらいの位置にある漆塗りの盆に載せる。
「金田さん、手際いいなぁ」
「杏子って呼んで」
「うん、私の事も美由紀って呼んでね」
美由紀はスプーン2杯ずつさっさと粉を入れると瓶とスプーンを元の位置に戻し、給湯ポットからカップ8分目までお湯を入れていった。
盆を運ぶと美由紀が各人の位置にカップを置いた。美由紀はカップを置き終わると盆を受け取ってテーブルの片隅に置いた。
「杏子は美希の隣に座って」