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昨日の恋明日の恋

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いつしか一人で低山を歩くことが趣味になっていた私は、もう何度も登っている高尾山に来ていた。紅葉にはまだ早かったが気温や湿度的には快適な季節だ。短い吊り橋に通じる道を歩いていた私は、前を歩いている女性が向こうから来る人に何か短い言葉をかけているのを見ていた。私はすぐに、こちらに向かってくる人と向かい合う。目があったので、「こんにちは」と挨拶、向こうも「こんにちは」と言って通り過ぎて行った。

女性はほとんど立ち止まった状態でいる。すぐに近づいた私に挨拶をし、そして彼女は尋ねてきた。
「この道は頂上に向かうのでしょうか? さっきの人は今通って来た道だと言ってましたが、戻るのもしゃくだしね」
そう言って笑った。
「ああ、お寺を見たいなら戻った方がいいですね。じゃなかったら、こっちは小さいけど吊り橋があります」
「ああ、吊り橋ね。好きなんですよ」
「え~、オレはいやだなあ、怖いよ」
「ははは、怖いけど行くのね」
「ああ、ここのは短いし揺れないからね。じゃあ、一緒に行きましょうか」
「あ、いいんですか?って、もう一緒に歩いてますけど」
彼女はそう言って笑った。あまり警戒心の無いような態度が気に入り、背が小さく中肉の姿形も好みだった。私は気分が高揚しているのを感じる。

「最近、趣味で写真を始めたんですよ。コンパクトカメラでね」
「ああ、そうですか。オレも撮るんですよ。これで」
私は自分のコンパクトカメラを見せた。
「ああ、同じメーカーのカメラだ。ああ機種も一緒かな、色違いだけど」
彼女のカメラはメタリックピンクだった。その色は彼女に似合うと思った。
「もっぱらブログに載せるための写真だから、一眼のでかいカメラはいらないしね」

「えっ、私も同じよ」
彼女が足を止めて私を見上げた。少し照れくささを感じながら、私はSNSの名前を教えた。彼女は友達に勧められて最近始めたのだと言った。そしてお互いのハンドルネームを教え合った。

吊り橋のほうに向かって歩きながら二人で話しをした。
「デーオさんって、たぶん私と同じくらいの歳でしょ。私はネズミ歳」
「ああ、一つ上かな猪だから」
「あ、でも私三月生まれだから同じ学年だよ」
「でも、そんな風に見えないよ、ユミさんは5、6歳は若く見えるよ」
「あら、デーオさんだって」
「ははは、そうゆうことにしておきましょう、ほら吊り橋が見えてきましたよ」

作品名:昨日の恋明日の恋 作家名:伊達梁川