【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた*
「…起きてる? 制多迦」
「…ん」
矜羯羅がむくりと起きると制多迦も起き上がった
だるさはあるものの外傷が見当たらない自分の体を不思議に思った矜羯羅
「…んがら?;」
矜羯羅が制多迦の黒い衣を剥いでまじまじと体を見る
「傷がない…」
「…んがらの傷も」
「結構大きな傷だったと思うんだけど…乾闥婆か慧光か…どっちにしろ…お礼は言わないといけないね」
そう言いながら矜羯羅が布団の足元を見た
そこには目の回りを赤くした慧光と相変わらずのお面の鳥倶婆迦が鈴鹿に寝息を立てていた
慧光の手からは微かな光が漏れている
「…っと治癒しててくれたんだね…慧光」
慧光の頭を制多迦がそっとなでる
少し腫れている慧光のまぶたがぴくっと動いた
「…起こしてどうするんだよ」
スパンっと矜羯羅が制多迦の頭を叩く
「…めん;」
制多迦がヘラっと気まずそうに笑うと慧光の目が開いた
「おはよう」
「おはようございま…ッ!?」
矜羯羅の挨拶に目を擦りながら答えた慧光がハッとしてガバッと身を起こした
「こ…矜羯羅様!!? 制多迦様…ッ」
「…はよう」
ヘラリと笑った制多迦とは反対にだんだんと眉が下がっていく慧光
「矜羯羅様…制多迦様…」
鳥倶婆迦もいつの間にか起き上がって二人を見ていた
「二人共…あ」
「ッ…!!」
言葉の途中で矜羯羅と制多迦に鳥倶婆迦と慧光が抱きついた
「っう…あああああああ!!!!」
「きょっ…ぅっ…せぃた…うわぁああああんッ!!」
制多迦と矜羯羅に抱きついたかと思うと二つの泣き声が響く
「よかっ…うえぇえええ…ッ」
押し倒された制多迦と矜羯羅が目を合わせそして微笑むと慧光と鳥倶婆迦の頭をなでる
「ありがとう…」
「…りがとう」
泣きじゃくる二人に制多迦と矜羯羅が礼を言った
「おっ来た来た」
茶の間の戸を開けた制多迦に声をかけたのは中島
「なんだ…みんないるの」
矜羯羅がぐるりと茶の間を見渡すとそこには京助と3馬鹿、緊那羅、柴田がいた
「みんなっつーみんなでもない…けど一応」
「一気に密度はあがったけどな」
制多迦がヘラッと笑い戸を閉める
はじめからいた6人にあとから制多迦たち4人が加わって10人になった茶の間の人口
「…あとのは?」
矜羯羅がこの場にいない者たちを聞く
「鳥類は乾闥婆んとこいったし…母さんたちはまだあっちにいると思うけど」
京助が答える
「ヒマ子さんは庭にいるっちゃ。あと悠助と慧喜は風呂…」
緊那羅が答えている途中て茶の間の戸が開いてふわっと香ったのはきっと入浴剤の匂い
「あっみんないる~」
「えっ…」
元気よく茶の間に入ってきた悠助
「慧喜?」
悠助が廊下にむかって慧喜を呼んだ
「慧喜? どうしたの? 入らないの?」
「…お…れ…」
茶の間に入ってこない慧喜
【入り】たくても【入れ】ないんだと悠助以外の全員が察した
きっと慧喜が感じているのは【罪悪感】
「俺…っ…」
泣きそうな声が聞こえた
「え…」
慧光が立ち上がろうとすると目の前を緊那羅が通った
作品名:【無幻真天楼第十四回・参】*あいのうた* 作家名:島原あゆむ